top of page

実録⁉ 思考力を鍛える日本史:ものがたり編

執筆者の写真: 順大 古川順大 古川

例によって、のぶた先生の電子書籍が売れてないという由々しき事態が続いているので、ブログで内容を紹介していこうと思います。



はじめに

・同じ小学校に歴史について話す友だちがいない。

・歴史に興味をもってほしい。

・社会科の授業がおもしろくなさそうだ。


 このようなお母さん・お父さんの悩みを受け、オンラインでの歴史・地理クラブという教室を始めて約3年がたちました。この教室は、中学受験をひかえた親御さんや、歴史好きの子どもたちのあいだで反響を呼びました。そして現在では、ご入会まで数ヶ月待ちになることもある、大人気のオンライン教室となっています。みなさんに選ばれた理由は、次のコンセプトにあると考えています。


・暗記じゃない歴史教室で、歴史が好きになる。

・受験で差がつく、考える力が育つ。

・大人になって役に立つ、問題解決力を身につけられる。


歴史・地理クラブのメインは、「思考力を鍛える日本史」というコーナーです。“百聞は一見にしかず”といいますので、まずは教室の様子を少しのぞいてみてください。


のぶた先生(筆者):「想像してください。今は大昔の古墳時代で、みなさんは古墳時代の人間です。ある日、人の勾玉(まがたま)を盗んだと疑われて、裁判にかけられることになりました。古墳時代には盟神探湯(くかたち)という裁判がありました。この裁判では、疑われた人の手を熱湯に入れさせます。このときに火傷をしたら、『神様に見捨てられたので、おまえが犯人だ』と言われます。なぜなら、『犯人でなければ神様が守ってくれるから、熱湯に手を入れても火傷はしないはずだ』と考えるからです。むちゃくちゃですね(笑)。

さあ、みなさんの目の前に、ぐつぐつと沸いたお湯が入った大甕(おおがめ)が置かれました。まわりは人々に囲まれています。この大ピンチの状況で、みなさんならどうしますか?」


Aさん:「じゃあ、あの……長袖を着ていって、袖の中に氷を隠しといて、ええと、手を突っ込んだときに、熱が冷めてぬるくなるようにする。」

のぶた先生:「おー、なるほど。長袖の中に氷を入れてと……なんかトンチみたいですね。おもしろい。」


Bさん:「えっと……横にいる人に勾玉(まがたま)を持たせておいて、その勾玉(まがたま)を引っぱり出して『こいつが盗んでいました』って言って……逃げ切る。」

のぶた先生:「ほうほう。人に勾玉(まがたま)を押し付けて『この人が盗んでいましたよー!』って、……ん? その勾玉(まがたま)を持っているってことは、Bさんが犯人じゃないか? 盗まれた勾玉(まがたま)を持っているということは犯人だよね⁉」


Cさん:「村人を何人か買収して……そっちで大騒ぎを起こさせる。うん、それでみんながそっちに向かっていったときに逃げる。」

のぶた先生:「村人を買収して逃げる……って、やっぱ犯人でしょ、キミたち。」


Dさん:「手を入れればいいじゃん、フツーに。私、神様信じてるし。」

のぶた先生:「ふふふ。信じていたものに裏切られて、人は大人になっていくのさ。」

Dさん:「なに、それー?」



 歴史・地理クラブでのオンライン学習は、このような内容と雰囲気で進んでいきます。「思考力を鍛える日本史」の教育的意義は、以下の通りです。

 昔ながらの歴史学習を思い出してみると、先生や参考書は、たとえば「1901年、北九州で八幡製鉄所が操業を開始しました」と教え、生徒はそれを暗記するだけでした。漢字で書けるようになれば○、年号を覚えれば◎、場所まで覚えればハナマルがもらえる、といったところでしょうか。しかし、暗記の繰り返しで身につく能力には限りがあり、なによりも子どもが歴史の学習を嫌いになってしまう恐れがあります。

 そこで、歴史が好きな子どもや、歴史や地理を学習し始めた小学生の興味を高め、自ら考えたことを伝える力を養うために、次のように問い方を工夫してみます。


「日本初の製鉄所をつくりたい。どんなところにつくりますか? それはなぜですか?」


 すると、生徒たちは自分で考え始めます。「何県につくる?」「山につくる? 町につくる?」といった試行錯誤が起こり、生徒たちの頭をさまざまな考えがめぐります。たとえば「山につくる」という意見を出した生徒には、「山だと広い平地を用意できないから、大きな工場はつくりにくいかも。山につくるなら、土地が狭いという問題をどうやって解決しようか?」などと問い、さらに考えてもらうことがあります。

 このような方法をとることによって、周辺知識と関連させながら自分で考える力が身につくのです。この方法で取り組んだ八幡製鉄所や盟神探湯(くかたち)といった知識は忘れにくく、歴史や地理を楽しく、身近に感じることができます。困難な時代を乗り切れる大人になるには、思考力や幅広い教養を身につけていることが重要です。目標を中学・高校・大学受験に絞ってみても、その教科が好きか嫌いかで学習効率に大きな差が生まれることは間違いありません。

 「思考力を鍛える日本史」は「おわりに」で述べるように、厳密な意味での歴史学ではありません。それは、先人が積み重ねてきた歴史学の知見にもとづいて子どもたちの思考力を鍛えるものであり、いわば子どもを知的に成長させる「日本史パズル」、もしくは「日本史ブレインストーミング」とでも呼ぶべきものかもしれません。


 筆者が子どものころは、教科書を音読させられ、板書をノートに書き写させられるだけの授業が大嫌いでした。その後、大人になって大学院で修士号を取得し、いくつかの日本史論文を学界に発表した後に、高等専門学校や大手予備校で日本史を教えてきました。予備校などは大学合格という明確な目的を達成するための学校なので、当然で正当ではありますが、暗記を中心とした授業をせざるを得ません。

 予備校などでの日本史授業の価値を認めつつも、それとは違った日本史の学習方法はないかと思案していたときに、思わぬ機会が到来しました。コロナ禍を契機として、オンライン講座が小学生の保護者に認知され始めたのです。ダイヤモンド・プリンセス号内での新型コロナウイルス感染が話題になっていた2020年2月、筆者は小学生向けに平日昼間のスクール「OneStep」を立ち上げたところでした。4月の開校に向けて教室の準備をしていたところに、あの緊急事態宣言が出されたのです。そこで、OneStepをオンラインで開校することとし、それに付随させる形でオンライン歴史・地理クラブを始めてみました。

 当初のオンラインの歴史・地理クラブには4人ほどの小学生が全国から集まり、それまでに構想を温めていた「思考力を鍛える日本史」などを教え始めました。また、中学生~高校生向けの歴史部や、史料を読解する高校生向けの日本史研究会も随時開いていきました。

 このオンラインでの学習はたいへんご好評をいただき、生徒の定着率も高く、新規のご入会希望の方も続々と増えていきました。その結果、のぶた先生(筆者)のオンライン歴史・地理クラブは1クラス5~6人の少人数制システムでありながらも、2年後には中学生・高校生も含めて常時100人以上の生徒が受講する、大人気の教室となりました。

 

 書籍化にあたっては、会話文では「~している」を「~してる」とするように、実際の会話のスピード感を残しつつも、ときには文法的に読みやすいように語尾などをなおしました。また、いくつかのクラスの内容を1話にまとめる、複数の生徒をミックスした書籍用のキャラクターを設定する、などの再構成を加えています。本編での私は毒のある返しをしたり、かなり強めのツッコミをしたりしています。また、大人にしか分からないであろうネタもあります。こうした箇所は、基本的には捏造です(笑)。参加している生徒たちなら知っていますが、実際ののぶた先生(筆者)はかなり柔らかい言い方をしています。それでは、「思考力を鍛える日本史」の「ものがたり編」を、どうぞお楽しみください。

 なお、実証史学(歴史学)ないしは受験で求められる歴史の叙述能力と、「思考力を鍛える日本史」との関係については、「おわりに」で触れていますので、そちらもぜひご覧ください。





目次

はじめに... 1

目次... 4

生徒紹介... 6

第1章:徳川家康 VS. カメハメハ大王 ‐オレが知ってる三方ヶ原の戦いじゃない‐(4~6年生向けクラス)... 8

コラム1:思考力を鍛える日本史 無添加編... 18

第2章:江戸インフルエンサーを斬る ‐星条旗よ酔っ払いなれ‐(4~6年生向けクラス) 20

第3章:天にケツする坂東武者 ‐ナメられたら殺す! フカされたら殺す!‐(2~4年生向けクラス) 32

第4章:せつないおじさんの都市問題 ‐サイレントでホーリーな夜に雨が降る‐(4~6年生向けクラス)... 39

第5章:主権線と利益線‐入れるか入れざるか それが問題だ‐(4~6年生向けクラス)... 45

第6章:睡眠不足と摂食障害 ‐そんな生活で大丈夫か? 大丈夫、問題ない‐(4~6年生向けクラス) 53

第7章:元寇攻防 ‐落とさザル・煽(あお)らザル・祈らザル‐(4~6年生向けクラス)... 63

第8章:元寇活躍 ‐ドラゴン襲来絵巻‐(2~4年生向けクラス)... 74

コラム2:誰も得しない日本史出張所 ‐竹(たけ)崎(ざき)季(すえ)長(なが)‐... 84

第9章:貫一・お宮も大迷惑 ‐その者青き筋肉を纏(まと)いて金色の夜叉に登場すべし‐(4~6年生向けクラス)... 86

第10章:Перейти! Балтийский флот, БФ‐イギリスよ、きさまだけは許さん‐(4~6年生向け)... 95

第11章:東方芸術は燃焼だ ‐JSが火あぶりになる程度のコンプラ能力‐(4~6年生向けクラス) 105

第12章:埼玉俳句ではいきゅっきゅー ‐地元愛バトル勃発 ていうか、もう餃子食べよう‐(2~4年生向けクラス)... 112

第13章:大阪府政の闇 ‐“大阪殿の13人”の陰謀‐(4~6年生向けクラス)... 118

コラム3:日本史バトル もちろん営業編... 126

第14章:ゾンビハザード ‐粉骨砕身がんばります! ゾンビなだけに‐(4~6年生向けクラス) 128

第15章:義(よし)姫(ひめ) VS. のぶた先生 ‐仁義なき土地争い 東京死闘篇‐(4~6年生向けクラス) 141

コラム4:誰も得しない日本史出張所 ―阿仏(あぶつ)尼(に)―... 149

第16章:英雄の帰還 ‐一人の下人が、凱旋門の下で雨やみを待っていた‐(2~4年生向けクラス) 150

第17章:その湯にふれることは死を意味するッ! ‐これがッ! これがッ! これが「盟神探湯(くかたち)」だッ!‐(4~6年生向けクラス)... 163

おわりに... 171

著者・イラストレータについて... 174



生徒紹介

赤津さん(5年生):高校数学を英語で学習しているスーパーボーイ。しゃべりかたがエラそう。新人さんが入ってきたときの自己紹介の感じ悪さは、スネ夫級。いや、鬼舞辻無惨)級といっても過言ではない。一番多くの小学生男子メンバーが混ぜられて投影されているため、けっこうキャラがブレる。


桃奈さん(5年生):ほんわか、ふんわかした話し方でアニメ声だけど、頭の中は闇属性。言葉をにごせば悪属性。がんばって良く言えば、マイペース。いろんな小学生女子メンバーが投影されているため、属性てんこ盛りのキャラになってしまっている。設定を盛りすぎてキャラが活かせないという、初期キャラクターメイキング失敗の典型。1巻の中盤くらいで芸風が飽きられそうで、筆者としては2巻以降で活かせる気がしない。


藍子さん(6年生):私立小学校に通う地味なメガネっ娘。ウチの取引先のお嬢さん。もちろん、学級委員長。とりあえず目立たないようにストーリーに参加させておけば、連載が進んでネタが切れたときに、作者の思いつきでキャラを後付けできるかも、という作者の心の保険。2巻以降に人気が上がってくることを期待したい。


青蔵さん(4年生):人数合わせ。どんなキャラかは後で考える。マンガの連載初期などで、初登場の上級生とか敵とかが顔に影がかかって登場する系のアレ(語彙力)。もしくはモブ。保険その2だけど、連載打ち切りが決まると雑に処理されるか、テンパっている作者に存在を忘れられる。


緑子さん(4年生):ボクっ娘(こ)。帰国子女や海外在住の生徒たちが投影されている。それゆえ、毎回接続元の設定がブレる。保険その3のつもりだったが、意外とキャラを押し出してきた。


黄助さん(4年生):人数合わせ。キャラがどうだとかは、何一つ考えてない。なんとかなるでしょ。


橙道さん(3年生):昭和時代に佃煮にするほど見たような悪ガキ。言葉遣いが乱暴なのだが、どのラインから注意すべきなのかが悩みどころ。この年頃の男子同士のトークラリーは、ケンカしているのか楽しんでいるのかの判別が難しい。実際、本人たちとしても、喜怒哀楽が瞬時に交錯しているんだろうし。


白美さん(3年生):たぶん、頭がいい。片付けとか掃除とかはニガテそう。もう少し年齢があがると、女子社会では浮き始めそう。学校の机の引き出しに、カビたパンとかを入れておかないようにね。話が脱線するのはめっちゃ好きなんだけれど、根底ではまじめ。


茶さん(2年生):元気! 人の話を聞かない!! 自分が言いたいことだけを言う。声がでかい!!! マイクの音量を調節してくれると嬉しいんだけど……。


黒香さん(2年生):まだちょっと慣れていない新人さん。人見知り⁉




第1章:徳川家康 VS. カメハメハ大王 ‐オレが知ってる三方ヶ原の戦いじゃない‐(4~6年生向けクラス)

なにかしらのジレンマに陥ったとき、何を残して、何を捨てるのかという問題を解決することは、大人にとっても難しいものです。ここでは小学生たちに弱小戦国大名だったときの徳川家康になってもらい、命がかかったジレンマに立ち向かってもらいましょう。


のぶた先生:「みなさんには、30歳ごろの徳川家康になってもらいます。このころの家康は、三河(愛知県)のあまり強くない大名でした。家康は織田信長と同盟を結んでいましたが、力の差があるために実質的には信長の傘下の一人のような立場であり、信長にはとても逆らえません。

そんなある日、めっちゃ強い武田信玄が家康の領地に攻め込んできました。武田軍はなんか赤いし、馬だし、多いしで、ちょー怖いです。家康の力では、まともに戦える相手じゃありません。どうしようもないので、家康は浜松城に籠城することにしました。」


赤津さん:「てか、後ろに描いてある城は熊本城じゃん!」

のぶた先生:「この絵? あ~、たしかに熊本城っぽいねえ。まあ、いいじゃん。気にしない、気にしない。

さて、家康が城に引きこもってブルっていると、領地に侵入してきた信玄は家康がいる城を無視して、西へ向かって通り過ぎていきます。家康的には『あれ? オレが籠城して戦おうとしたら、信玄にスルーされたぞ』ってなるわけです。これはラッキー……ではありません。信玄が向かった西、その先には信長様の国があるんです。

こうなると家康はつらい。信玄を信長様のもとに行かせないために城から出て戦えば、信玄が強すぎるので家康は死ぬでしょう。じゃあ、このまま信玄を見逃して信長様のところにまで行かせてしまうと、今度は信長様に怒られて、殺されちゃうかもしれないんです。

ということで家康的には、城から出たら死、城の中にいても死、という難し~い状況になってしまったわけです。みんなが家康だったら、この状況をどうしますか? そう、まさに“どうする家康”ですね。」


黄助さん:「えっと……あんまり使ってない家来とかを突撃させる。」

のぶた先生:「お、おう……突撃させると、その家来は死にますよね。そしてその後はどうなりますか?」

黄助さん:「それで、あの……うん、あの……一応突撃させたから、あの……ボクは信長に殺されずにすむし、城の外で信玄と戦うことにもならないから。」

のぶた先生:「ああ、使えない家臣を一応突撃させておけば、『え、オレ、ちゃんと戦いましたよ。やるだけやりましたよ』っていうふうに、信長に言い訳ができるということですね。家臣の尊い命を犠牲にして、偽りの忠義を示すということですねえ。」



赤津さん:「今川と同盟を結んで信玄を止めてもらって、自分は北条のとこまで逃げる!」

のぶた先生:「残念。大名としての今川は、このときにはもう滅んでいます。」


青蔵さん:「もう腹をくくって、信玄に『ボク、味方だよ』って言って味方になる。それから信長様には、『ザコ信玄がお金を用意して、それで許してくださいって言ってきたんです。だからボク、ザコ信玄を許してあげたんですけど、いいですよね?』って言って、自分で用意した金を信玄がくれた金だと言って信長に渡して……危機一髪でなんとかなる。」

のぶた先生:「あ~、首をしめるやつや~~~。あとで一番大変なことになるやつや~~~。絶対やったらアカンやつや~~~。」

青蔵さん:「???」

のぶた先生:「それ、信長的には、自分の傘下の家康に信玄が詫びを入れたことになるでしょ。そうなると当然、信長は信玄に自分のところに挨拶に来るか、貢(みつぎ)物(もの)を持って来いと要求することになる。上下関係をはっきりとさせるためにね。

んで、信長から信玄にそんな手紙が届いたらどうなる? 信玄的には、家康は自分に尻尾を振ってきて、実質的には降伏したのと同じでしょ。だから、『はぁ⁉ 意味分からんわ⁉ ウソつき家康出てこいや、くらす[1]ぞ、ゴルァーーー!!!』ってなるでしょ。なんでか知らんけど、完全に博多弁モードになるよ。もちろん、信玄が信長のところに来なかったり、信玄から信長に煽(あお)りメールが届いたりしたら、家康が信長にウソをついてたことがバレて、信長は『家康ぅ! きさーん[2]、なんばしよっと[3]ねーーー!!!』ってなる。もう、信玄も信長もマジギレして、家康を滅ぼしに来るよ。信長も敵になって、家康は完全に詰むぞ。」


緑子さん:「信玄の近くに潜んでヒゲを一本抜いて、信玄が『痛―っ!』てなって……怒って突撃してきたら、木の棒を投げまくって火をつけて、油も投げて丸焦げにする。」

のぶた先生:「なるほど、アグレッシブだね。てか、ヒゲを抜けるぐらい近づけるなら、もうそのときに刺し殺したほうが早くないか?」


赤津さん:「じゃあさ……武田軍が通り過ぎたら、そのすきに武田の領地に行ってそっちを攻める。」

のぶた先生:「なるほどね。三河まで遠征に来ている今なら、本拠地が手薄そうだしね。」

緑子さん:「まだいっぱい兵が残ってるかも。危険にきまってんじゃん。」

のぶた先生:「危険だという意見も出ましたね。いろいろな意見がありますね。」

赤津さん:「じゃあ、上杉謙信に『今、武田の領地が空いてますよ』っていう書状を送って、謙信に甲斐を攻めさせる。そしたら信玄は帰るしかないでしょ。」

のぶた先生:「なるほど。背後の謙信が動くとなると、信玄は焦りそうですね。」


緑子さん:「武士に変装して、信玄を暗殺する。」

のぶた先生:「やっぱり、家康自らが信玄を暗殺しに行くのね。……ん? 武士に変装もなにも、家康って武士じゃね? じゃあ、武士に変装した家康って……つまり、いつもの家康で、家康本人そのものじゃね? バレるくね?」


黄助さん:「えっと、信長を殺して……信玄と同盟を結んだあとに、信玄を殺す。そして……信玄はいなくても騎馬軍団は強いから、騎馬軍団の馬を全部盗んで逃げる。」

のぶた先生:「家康本能寺の変! どうした家康⁉ 信長も信玄もいなくなって、騎馬軍団もぜんぶ家康のものになるという……うまくいけば、たしかに家康が日本最強になるね。……でも、家康が信長を殺して三日後(光秀は11日後だけど)に信玄に殺されるっていう、”家康三日天下”フラグが完全に立ってますね。大河ドラマ『家康麒麟がくる』だ!」


藍子さん:「意見の前に質問なんですけど、距離は? 武田軍に槍……はムリだとしても、弓とか鉄砲って届きます?」

のぶた先生:「うーん、届かない、届かない。何キロって離れてるよ。」

藍子さん:「じゃあ……あっ、モグラ攻めだ!」

のぶた先生:「どゆこと?」

藍子さん:「モグラ攻めってあるじゃないですか。土の中にもぐって、相手の城の近くとかまで行くやつ。で、土の中から地上の武田軍を槍でぶっ刺せばいいんですよ! 騎馬軍団を全滅させるために。」

のぶた先生:「なるほど。ただ、信玄って馬とかでさ、信長のほうに向かってるわけじゃん? 穴を掘りながら近づこうとしても、信玄に追いつけるかなあ?」

藍子さん:「うーん、フツーにがんばる。」

のぶた先生:「フツーにさあ、地面の上を歩いてる人にさ、穴を掘りながら追いつけるかい?」

藍子さん:「そっかー。じゃあ、信長に怒られたほうがましかなぁ?」

緑子さん:「なに? 信長に怒られて殺されるのって、みっともない死に方でしょ? 最後まで戦って死ぬほうが、かっこいいと思うよ。」

藍子さん:「そうだ! トンネルで逃げればいい。謙信のとこまでトンネルを掘って、助けを求めるとか。」

のぶた先生:「同じトンネルでも、攻めに使うだけでなく、逃げるために使うという発想も出てきましたね。」


桃奈さんが、パンをはむはむと食べ始める。


のぶた先生:「まだ発表してない人、どうですかー? 桃奈さんとか、どうですかー?」

緑子さん:「ボクはもう、2回も言ったよ。」

のぶた先生:「そうだね。緑子さんは2回言ってたよね。」

緑子さん:「発表するの得意だから。」

のぶた先生:「お、えらい。」

緑子さん:「得意なだけで好きなわけではない。」

のぶた先生:「(⁉)……難しいこと言うね。オレが緑子さんにイヤなことをさせてるみたいじゃん。……というわけで、パンを食べてる桃奈さん、どうぞ。」

緑子さん:「食べてんの⁉」

桃奈さん:「ふふふ、はふー(←パスー)♡」

のぶた先生:「まだ口の中にパンが入ってるし。そんなこと言わずに、なんか言ってよ~。」

桃奈さん:「え~~~っとぉ、自分の影武者♡を探して~、その人に自分の兜(かぶと)とかをすべてあげてぇ。影武者は殺されてもいいから~、自分だけ城でのんびりしてぇ……♡」

のぶた先生:「そ、その哀れな影武者は何をするのかな? こ、殺されてもいいとか言われてるけど……」

桃奈さん:「軍隊を率いて、信玄と戦う♡」

のぶた先生:「じ、自分はどうするって言ってたっけ?」

桃奈さん:「一人でお城でのんびりとしてるよぉ~。あ、じゃあ、お城でパン食べてるね♡」

のぶた先生:「桃奈さんは、ぜっっったいに、人の上に立っちゃいけないタイプの人間ですね。」


赤津さん:「武田軍が通り過ぎるのを待って、その後に城から抜け出す。要は、非常用出口とかがあるだろうから、バレないように脱出して……で、船で海外に行く。バイバイする。」

のぶた先生:「なるほど、海外逃亡。じゃあ、どこの海外? イースター島ぐらいまで行く?」

赤津さん:「そこは遠いから、まあ、普通に考えて近いとこ。うん、ハワイぐらいかな。」

のぶた先生:「厭離(おんり)ニッポン欣求(ごんぐ)ハワイ[4]! それ、家康がハワイで天下取るんじゃね? いいね。誰か小説を書いて、大河ドラマにしようぜ。ちょうどいいじゃん。」

赤津さん:「今度『どうする家康』やるもんね。確かに。」

のぶた先生:「うん。だから、もうさ、それを中止にして、『どうするハワイアン家康』とかにして放映しよう。ハワイヶ原の戦いで、家康とカメハメハ大王に一騎打ちさせようぜ!」


桃奈さん:「え~♡、もう、イースター島まで行きましょうよ。」

のぶた先生:「近日公開! 映画『イースターレジェンド アンド バタモアイ』。これでキムタク信長……じゃない、家康がイースター島で天下を取ると。」

青蔵さん:「いや、30秒で統一できそうですよ。30秒で映画が終わりますよ。」

のぶた先生:「ちょっと、イースター島をナメてない? イースター島の大将は椅子田(いすた)三成で、八万の西(せい)モアイ軍を率いてんのよ! イースター鉄砲隊はイースターエッグを三段撃ちすんのよ! これには家康も苦戦するよ。……あれ? カメハメハ大王と椅子田(いすた)三成のどっちがエラいんだ⁉」

赤津さん:「そんなん、どうでもいいし。」

のぶた先生:「(ノォー!!!)というわけでね。まあ、いろんな意見があって、おもしろかったですね。個人的には、ハワイとかイースター島に逃げた家康が、そこで天下を取るドラマを作りたくてしょうがないですね。この本が売れたら、YouTubeで大河動画を作れないかな。」

黄助さん:「だったらボク、あの、すっごい高評価をつけます。」

青蔵さん:「じゃあ、ガチでYouTubeでやって。」

のぶた先生:「よし。目標ができた! 家康がイースター島とかを統一する大河動画をつくって……バズったら続編もつくる! 征イースター将軍となって、イースター幕府を開いた家康のもとに、同盟を組んで日本を統一した信長と信玄が大艦隊で攻めてくる、的な続編をね。


さて、結局、家康はどうしたかというと、城から出て信玄を追いかけます。でも、信玄はそれを完璧に読んでいて、きっちりと待ちかまえて徳川軍をボコボコにします。武田軍にボロ負けした家康は、怖くてうんちっちを漏らしながら、浜松城に逃げ帰ります。(この本では紹介できませんが)浜松城に逃げ帰ったあとが、次の『思考力を鍛える日本史』コーナーのテーマです。」


子どもたちには、ジレンマを解決することの難しさだけでなく、歴史上の人物も同じように苦労したり失敗したりしたことを知ってもらいたいと思っています。そうすることで日本史の人物に親しみを感じ、勉強するときには記憶に残りやすくなります。そして、大人になっても歴史に学ぶ姿勢を持ち続けてもらえることを期待しています。

書籍化するにあたり、いくつかのクラスでの子どもたちとのやり取りを合わせて、全体の流れを再構成しています。また、のぶた先生の返し、特にツッコミには多くの加工、演出が加えられています。実際には、この本のような毒のある返しやツッコミはしていません。ただし、子どもたちの発言の大枠は、実際のオンライン歴史・地理クラブでなされたもの、そのものです。歴史・地理クラブのリラックスした雰囲気が伝わると嬉しく思います。




コラム1:思考力を鍛える日本史 無添加編

ここまで何度か触れてきたように、本書では実際の「思考力を鍛える日本史」でのやり取りに、多大なる演出を加えて再構成しています。演出を加えたり、のぶた先生が毒を吐いたりする前の、オンライン歴史・地理クラブでの生のやり取りも、ぜひ御覧ください。


Aさん:「もう腹をくくって、武田信玄に『ボク、味方だよ』ってゆって、味方になるか、その代わり、織田信長に『武田信玄が、なんかお金用意してくれて、それで許してくださいって言いました。だからボク、許してあげたんですけど、いいですよね』ってゆって、自分で用意した自分の金を渡して、……あの、危機一髪。」

のぶた先生:「危機一髪! でも武田信玄側につくというか、信長を裏切るということですね、完全に。じゃあ、次の戦う相手は信長になるね。」

Aさん:「まあ、どっちか……どっちか、状況によるけど……どっちかをとって裏切るか、……自分の金で、うん、金を用意するのかどっちか。」


Bさん:「えっと、自分の影武者を、探してその人に、えっと、自分の兜(かぶと)すべてあげて、……殺されてもいいように……あ、殺されてもいい影武者を出して、自分だけ城でのんびりして……」

のぶた先生:「影武者は何をするのかな? この場合は?」

Bさん:「軍隊を率いて信玄と戦う。」

のぶた先生:「自分は?」

Bさん:「一人でお城でのんびりとしてる。というそんな感じですかね?」

のぶた先生:「なるほど、なるほど。徳川慶喜みたいな作戦ですね。ありがとう。……ん~、慶喜はちょっと違うか。」


のぶた先生は、本当は優しくないですか? ぜひ第1章と見較べてみてください。無添加版の「実録! 思考力を鍛える日本史」は、筆者のブログで随時公開していますので、ぜひチェックしてみてください。オンライン歴史・地理クラブへの入会を検討されている方にもお勧めです。

[1] くらす…博多弁で「殴る」という意味。 [2] きさん…漢字に直すと「貴様」。博多弁文法における二人称。 [3] なんばしよっと…博多弁で「何をしているの」という意味。 [4] 「厭離(おんり)穢土(えど)欣求(ごんぐ)浄土(じょうど)」……徳川家康が旗印に使っていた言葉で、けがれたこの世を離れて、極楽浄土に生まれたいと願う意味。


というわけで、みなさん、買ってください。。。


江戸インフルエンサーを斬る ‐星条旗よ酔っ払いなれ‐(4~6年生向けクラス)

令和の小学生は江戸時代にどんなイメージをもっているのか? そんな興味から生まれたテーマです。江戸時代の服装を通して、江戸時代のイメージを見せてもらいましょう。

この章あたりからのぶた先生が暴走していきますが、実際のクラブではキツイ返しや強いツッコミはしませんし、大人にしか分からないネタは、ほぼ書籍向けの演出ですので、誤解のありませんよう。


のぶた先生:「今日は、江戸時代の服をデザインしてもらいま~す。色鉛筆やクレヨン、絵の具などを使って、プリントに描いてある江戸時代の人たちの服に色を塗ったり、模様をつけたりしてみてください。では、みなさんがイメージする江戸時代を絵にしてみましょう。江戸時代に流行ってそうな服ですよ~。」

緑子さん:「どんなのが流行ってたかなんて、分かんない(不満)!」

のぶた先生:「こーゆーのが流行ってたんだって! てか、自分でデザインして流行らせればいいじゃん! たとえば、こーゆーのを。」



藍子さん:「“はなくそ”柄とか、流行るわけないじゃん!」

のぶた先生:「流行るって! 江戸時代にちょーバズってたんだって! 江戸フォロワー100万人の江戸インフルエンサーが、江戸SNSでステマってたんだって! 分かったらとっととデザインして、自撮りして、バエるように加工して、承認欲求を満たしてくださ~い。」


赤津さん:「男はできたよ。」



のぶた先生:「右はバーチャル背景に隠れてるけど、左は赤っぽい服ですね。内側の服は青かな。」

赤津さん:「歌舞伎、歌舞伎。江戸時代っていったら、歌舞伎じゃない? 歌舞伎の人って赤と黒のイメージだったから、赤と黒をメインにね。」

のぶた先生:「ふむ。たしかに、歌舞伎は江戸時代のイメージが強いね。」


緑子さん:「男の人のほうはこんな感じかなと思って。よく江戸時代のCG写真とかが出てくると、こーゆー服の色の人がでてくるので、こんな感じに。あと、女性は赤地に花柄というのが、やっぱり江戸時代の服装なのかなと思って。」



のぶた先生:「なるほどね。再現CGみたいなものを見たことがあるんだね。本でもなんでも、ビジュアルが豊富なものを見ることはいいことですよね。ビジュアルから想像を膨らませて、さらに歴史を好きになっていってください。」


のぶた先生:「手があがりましたね。桃奈さん、お願いします。」

桃奈さん:「ちょっと待って。ちょっと私、iPad起動中です。……ほら♡」



のぶた先生:「iPadを使って描いてくれました。女の人の模様がきれいですね。じゃあ、江戸時代っぽいポイントを教えてください。」

桃奈さん:「えっとまず、男の人は切腹中で……」

のぶた先生:「切腹中⁉ あ、ホントだ! 今気づいた! 今気づいた、包丁がある!」

みんな:大爆笑

のぶた先生:「……いや……いや、いやいやいや。いや、そ、それファッションなの⁉ おされ江戸メンズは、お腹に包丁刺しながら街中を粋に闊(かっ)歩(ぽ)してたの? バエるためには身を切る、的な⁉」

桃奈さん:「えっとそれで、見返り美人図の人はぁ、浴衣っぽい柄にして……」

のぶた先生:「ふんふんふん(いや、切腹は? せ・っ・ぷ・く・は???)。」

桃奈さん:「花火でも後ろにあるような感じにしました♡」

のぶた先生:「(『♡』でスルー!)ああ、なるほどね。浴衣のイメージで、後ろに花火がある(いや、そんなのどうでもいいから! 切腹よ!)……てか……なんといっても……いや男の人のね……あの、白装束で切腹してるのに目がいって、女の人に目がいかないね、それ。

まさかの切腹。いやまあ、確かにある意味江戸時代っぽいかもしれないし……江戸時代のイメージということなら……(必死にフォロー)。まあ、じゃ、ありがと、桃奈さん。時間があったら、男の人に切腹じゃない服も描いてあげてください。バズる前にいきなり切腹させられましたね、男の人。……まさかの。」

赤津さん:「まさかの(笑)。」


藍子さん:「私は、こんな感じで……」



のぶた先生:「お、模様をいっぱい入れてくれましたね。」

藍子さん:「自分の中ではなんとなく女の人は、紫とか青っぽいイメージがあって、男の人はもうちょっとはっきりした青とか緑とか赤っていうイメージがあったから、それを使って。で、男の人は、大きい模様のデザインで、女の人は結構ちっちゃい模様があったりする感じかな、って思ってやってみた。」

のぶた先生:「女の人が紫とか青っぽいっていうのは、たぶん藍色をイメージしてんじゃないかな。藍色は江戸時代の日本でよく使われていて『ジャパンブルー』とも呼ばれ、日本を代表する色になっています。東京オリンピックのロゴでも採用された色ですね。男の人の色彩は、歌舞伎のイメージかな。藍色に注目したことと、あとね、男の人と女の人で模様の大きさを変えているのもおもしろかったです。」


桃奈さん:「できたと思いま~す。」

のぶた先生:「おお、桃奈さん。江戸時代お願いしま~~~す(学級会の女子の口調で)。切腹じゃないやつをお願いしま~~~す。」

桃奈さん:「あ、よし。ついでに女の人も描いておきました♡ はい♡」



のぶた先生:「(ん?)おっ! さらに女の人も……ん~~~、男の人が、水玉なのは、分かる、けど……女の、人、は……ちょっと……オレの見間違い……かな? ちょっと……雰囲気が、変わった、ように……見え、るけど。」

青蔵さん:「違う、違う。向きとかが違う。」

赤津さん:「絵のタッチがぜんぜん違うし!」

のぶた先生:「お、女の人は、しばらく見ないうちに変わる、とはいうけ……ど……ちょっ……と……のぶた先生の目がちょっと……。ろ、老眼なのかなあ……」

藍子さん:「単純に、ネットで拾った画像と入れ替えてますね。」

のぶた先生:「というわけでね。男の人の服をデザインしてくれたにもかかわらず、例によって女の人にしか目がいかないですが、大丈夫でしょうか?」

桃奈さん:「女の人は遊女で、男の人は人(にん)足(そく)寄(よせ)場(ば)の水玉模様の着物にしました♡」

のぶた先生:「(なんで毎回『♡』なんだろう?)まさかの人(にん)足(そく)寄(よせ)場(ば)が登場しましたね。切腹からの人(にん)足(そく)寄(よせ)場(ば)。まあ、切腹よりはマシですけどね。人(にん)足(そく)寄(よせ)場(ば)は、宿や仕事がない人や犯罪人などを働かせつつ技術を身につけさせる、職業訓練所ですね。そこに入れられている人は水玉模様の着物を着ていたといいます。……てか、正直、そんなことはどうでもよくて、その女の人の絵はどっからもってきたの?」 


青蔵さん:「はい!!!」

のぶた先生:「おっ、じゃあ、青蔵さんの江戸魂を見せて!」

青蔵さん:「まず男から!!!!! 酒に酔って、金を、えっと小銭を持って、酔いながら街を歩いてるおっさんを描きました!!!!!」



のぶた先生:「(今日はテンション高いね。そんなキャラだったっけ?)ははは、それは江戸っぽいですね。たしかに江戸にいそうです。めちゃくちゃいそう。ははは、ごめん、思ったより江戸にいそう。」

青蔵さん:「あと、右は、超金持ちそうで金を持ってない女の人!!!!!」

のぶた先生:「金持ちそうで、金を持ってない(笑)? 貧乏なのに、借金してブランドバッグ買うような女の人、といった感じでしょうか?」

青蔵さん:「そんな感じです!!!!! あと、こっちの男の人は金髪なんです!!!!!!」

のぶた先生:「??? それ、江戸っぽくなくない? 金髪って江戸っぽくなくない???(あと、圧が強い。『!』の圧が強いよ、キミ)」

青蔵さん:「江戸っぽくないんだけど、なんか金髪にしてみた!!!!!」

のぶた先生:「『してみた!!!!!』のね(笑)、おもしろい。最後で江戸っぽくなくなりましたね。ありがとぅう!!!!!(圧) さて、それでは次に真の江戸魂を見せてくれる人は誰かな? 江戸江戸えどえどえど……」


のぶた先生:「まだなのは……。あ、明治魂[1]の黄助さん。」

黄助さん:「えっと、この人は北条家の末裔で……」

のぶた先生:「北条家の末裔できましたか。なるほど。」

黄助さん:「まあ、ちょっと飲んだくれ。」



みんな:大爆笑

のぶた先生:「また出た、飲んだくれ! だからこそ酔っ払いだ(進次郎構文[2])。」

黄助さん:「で、刀を持って……」

のぶた先生:「あう⁉」

黄助さん:「お金払わないで店主を殺そうとする前。」

のぶた先生:「ええっ! それ、逆じゃね? そいつが金払わないんだったら、店主がそいつを殺すんじゃない? 逆だよね?」

黄助さん:大笑い

のぶた先生:「払わないほうが殺すのかよ。ヤベぇやつだな……。」

黄助さん:「で、女性は……」

のぶた先生:「うん?」

黄助さん:「もともと白い着物だったけど……血がたくさん付いて……」

のぶた先生:「血??? 何で? 何で? 何でぇ?」

黄助さん:「殺した。」

のぶた先生:「(誰を⁉)なんか、黄助さんの江戸は死ぬね。とにかく死ぬね。ヤバいね。ついでに言うと、北条家要素は皆無だったね……。」


のぶた先生:「お、青蔵さん、またきましたね。」

青蔵さん:「えっとボクは、男の人をちょー改造しました。」



のぶた先生:「たしかに……。ん? 男の人?」

青蔵さん:「そう、改造しました、男。」

のぶた先生:「んん~? なんか、男というか……むしろ女の人が非常に特徴的な気がするんですけど……心理テストで別室に連れてかれそうな感じの絵に見えるんですけど……。どうでしょうか?」

青蔵さん:「えっと、なんか、酔ったおっさんとかに変なことされたら嫌だから……」

のぶた先生:「うん、うん。」

青蔵さん:「上半身ぜんぶ隠す。」

のぶた先生:「なるほど⁉(でも、下半身も隠れてないと、キュートなヒップにズッキンドッキンしそうだけど……。)」

青蔵さん:「そして、酔っぱらったおっさんは髪を長くして、ヒゲがちょっと長くなって、あと眉毛が太くなって、ここから出血してて……」

のぶた先生:「やっぱり流血⁉ そ、それは酒の、酒のせいでそうなるんですか?(あと、『!』の圧はどこいった? なんで今度はローテンションなんだ?)」

青蔵さん:「うん、そう。酔って、誰かと殺し合いしたけど、この人は傷つき、えっと傷がここだけついた。」

のぶた先生:「お、おう。それで、こ、殺し合いをすると、眉毛が太くなるんですか?」

青蔵さん:「(笑) いや、殺し合いをしたらというか、まあ、そこは自分で墨で塗っちゃうらしい。あと、こいつが酔いすぎて、鼻毛が伸びました。」

のぶた先生:「『酔いすぎて鼻毛が伸びました』って(笑)、ありがとう。なんかあれだね……論理を、論理をくださいって気持ちだよ、今。」

青蔵さん:「あと、ここに蛇の刺(いれ)青(ずみ)を入れました。」

のぶた先生:「なるほど、刺(いれ)青(ずみ)。江戸時代のイメージとしての刺(いれ)青(ずみ)ですね。」

青蔵さん:「いやだけど、この蛇はアメリカ。」

のぶた先生:「ア・メ・リ・カ⁉ U・S・A⁉ もう、なんか最初のテーマ、関係なくなりましたね。アメリカって。そ、そういえば、金髪だったもんね。そいつ、金髪だったもんね。……もうなんか途中からさあ、江戸時代のイメージじゃなくて、完全に“みんなで酔っ払い描こう! イエーイ!”みたいなテーマになってきたよね、今日は。」

みんな「うんうんうんうん(笑)。」

のぶた先生:「みんな、数多くの酔っぱらいを描いてくれてありがとうございます……って、違ぁーう! というわけでね、まあ、実際に江戸時代はね、男の人は地方から大都市に来ててね、あんまり仕事がなくて、結婚もしてなくて、酒だけはあるから酔っ払いがゴロゴロいた、そういう面もあるんです。」


小学生が抱く江戸時代のイメージを知りたいというテーマでしたが、失敗だったでしょうか。成功だと言えるでしょうか。……やっぱり失……ゲフンゲフン。テーマによっては、0からイメージをアウトプットするのは小学生には難しいので、補助線を引いてあげることが大事だと思っています。今回の場合は、いきなり江戸時代をイメージする絵を描いてもらうのではなく、補助線として塗り絵を用いてみました。


[1] 黃助さんのバーチャル背景が田原坂の戦いだったので、「今日のテーマは江戸魂だけど、黃助さんは明治魂だね!」といった話をしていました。バーチャル背景に歴史ネタを仕込んでくる生徒は、背景のネタを拾ってあげると嬉しそうにしてくれます。

[2] 進次郎構文…政治家小泉進次郎が放つ、内容がなく国語的にもおかしい独特の言い回し。「今のままではいけないと思います。だからこそ日本は今のままではいけないと思っている」などが有名。



第3章:天にケツする坂東武者 ‐ナメられたら殺す! フカされたら殺す!‐(2~4年生向けクラス)

 『日本書紀』のような歴史書には、日常生活で当たり前のことは記されていないことが多いものです。文献だけでは分からない日常のアレコレを研究するためには、出土した遺物や生活の痕跡を調べる考古学的手法などの力を借りることが必要です。この章では、日常生活に欠かせないトイレのお作法を題材に、小学生の問題解決力を見てみたいと思います。


のぶた先生:

「今から、ちょっと汚いお話を考えてもらいます。くさ~いお話です。みなさんは、タイムマシンで鎌倉時代に時間移動しました。どうやって?……知らん! すると、トイレに行きたくなりました。さっき落としたチョコレートを、ママに内緒で拾って食べたのが悪かったのかもしれません。

鎌倉時代のトイレに駆け込みましたが、今と違って、トイレットペーパーがありません。もちろんウォシュレットもありません。昔は高価な紙でお尻を拭くことなんて、できなかったんです。それは紙が高いからです(進次郎構文)。画面を見てください。鎌倉時代のトイレは、こんな感じです。幕府の敷地や、執権・北条泰時の家にあったトイレなので、地位が高い人たちが使うトイレです。



 一つ目のトイレは、地面に穴を掘って、穴の上に2枚の板を置きます。その上でしゃがんで、真ん中にある穴からうんちっちを下に落とします。……危ないね、これ。ズレたり割れたり、泥で足がすべったりして、すぐ自分も落ちるよね。

 次に、こんなトイレもあったそうです。水がチョロチョロと流れている溝の上にまたがります。おおっ! あんぜ~ん。手に「せき板」という板を持って、これで溝を流れている水をせき止めます。「水をせき止める板」という意味で、「せき板」というんですね。すると前のほうに水がたまるではありませんか! そして、うんちっちをした後、この板を上に『おりゃっ』と持ち上げると、せき止められていた水が前から後ろに流れだして、うんちっちは道の端の溝まで流されていくという仕組みなんです。よくできていますね。

 とは言え、ぽっとし落としたうんちっちの行く末なんかには、今は興味ありません。みんなに考えてほしいのは、“おしりどうする問題”です。うんちっちをした後は、おしりをキレイにしたいですよね。でもウォシュレットもトイレットペーパーもありません。さて、みんな、どうやっておしりをきれいにしましょうか。」


青蔵さん:

「あのう、痛いんだけど、せき板で拭く。」

のぶた先生:

「手に持ってるこれですよね。このせき板で……どうやって⁉ せき板、大きいよ。たぶん、プールのビート板くらいあるよ。しかも重い。じゃあ、せき板でおしりが拭けると言うのなら、まずはビート板でおしりを拭いてもらいましょうか。」

青蔵さん:

「じゃあ、川の水で洗う。」

のぶた先生:

「川はそばにないんだよなあ。最寄りの川までおしりを汚したまま歩くってのもなあ……なかなか難しいぞ。カピカピになるぞ。」

燈道さん:

「まず、うん、トイレした後に、なんか人が入れるぐらいの池みたいなのをつくって、ケツを入れて何分間か座ってるとか。」

のぶた先生:

「ああ、なるほどね。でも、次に入る人はイヤじゃない? 前の人のケツ汚れがブレンドされた池に入るのは。」

燈道さん:

「その人専用の池をつくる!」

のぶた先生:

「人の数だけケツ池がある! めちゃくちゃ広さが必要そうですね。」

白美さん:

「はい。えっと、隣におしり用の水たまりみたいなのを作って。それで右側の水洗トイレみたいな仕組みにして、おしりを洗ってからその水を流す。」

のぶた先生:

「ああ、なるほどね。洗った水を流すというところまで考えてくれました。みんな、けっこう水を使おうとしますね……」

茶さん:

「水ぅ! もう一人がかけてあげる!」

のぶた先生:

「二人一組でうんちっちをして、おしりを突き出し合って、お互いに『キャハハ☆こいつ~。やったな~♡』とか言って、すくった水をかけあう的な?」


燈道さん:

「鎌倉幕府の武士のところに行って、刀を借りて、刀でおしりを拭いてもらう!」

のぶた先生:

「え⁉ 痛いよね? オレは出張先のホテルではカミソリで髭をそっているけど、あんなもんをおしりにあてたら血みどろ大事件だよ。おしり大事件! おしりな探偵が事件を調べに来て、失礼なプーをこいたりしちゃうよ。おしりに刃物をあてるのは、やっぱり身のキケンじゃないか? あと、おしりを汚したまま偉い武士のとこまで行くの⁉ 偉い武士のほうも、いろいろキレるんじゃないか? 『北条殿! クソをしたので、おぬしの刀でケツを拭いてほしいでござる!(キリッ)』とか言ったら、絶対『舐められたら殺す! いや、拭かされたら殺す!』とか北条殿に言われて、バサーって斬られちゃうよ。」

燈道さん:

「じゃあ、槍!!!」

のぶた先生:

「解決してない! 解決してないよ! むしろ、槍のほうが長い分持ちにくくて拭きにくいよ、きっと……試したことないけど。ちょうど地震が起きたりしたら、スゴい刺さりかたするよ(汗)串刺しだよ! ヴラド三世[1]だよ!」

[1] ヴラド三世……ワラキア公国の領主で、吸血鬼ドラキュラのモデル。敵に対して残忍なことをしたため、「串刺し公」と恐れられた。

燈道さん:

「じゃあ、弓!!! 弓の紐(ひも)のとこで拭けばいい!!!」

のぶた先生:

「なんで⁉ なんで燈道さんは、かたくなに武器でおしりを拭きたがるの? 武器は人を傷つけるためにデザインされたものだよ。繊細なおしり拭きとしては、たぶん一番適してないよ。あと今思ったけど、弓の弦(つる)……紐(ひも)のことね、にうんちっちが付くと、戦で射るときに、まわりの味方にぴゅんぴゅんとうんちっちが飛び散りまくるんじゃね?」


青蔵さん:

「虫! 虫を捕まえて、おしりを虫で拭く!」

のぶた先生:

「むしー⁉ もう、なにからツッコめばいいのか分かんないけど、うんちっちをしたあとに虫を捕まえるの? 毛虫的な蟲(むし)? クワガタ的な虫?」

青蔵さん:

「トイレに行く前に捕まえればいい!」

のぶた先生:

「(展開が早い!(汗))『うんちっちがモレるー』っていう、一秒を争う勝負どころに、どうぶつの森みたいに虫取り網で虫を捕まえに走るの? 内股で⁉ てか、そもそもなんの虫? ……え、セミなの⁉ セミだと、おしりの割れ目の間でも『みーんみーん』とか鳴き続けるよ。おしりから『つくつくほーし』ってサラウンドが空間に広がるよ。なによりもうるさいから、『あいつ、アブラゼミでケツ拭いてやがる。ダッセー。フツー、クマゼミだろ』って、まわりのみんなにセミケツマウントとられちゃうよ。」


茶さん:

「天井をなくして、雨でおしりを洗う!」

のぶた先生:

「雨! 天気が良い日はどうするの???」

茶さん:

「天気が良い日は、なんとかなる!!! 雨の日だけ、雨で洗う!」

のぶた先生:

「(なんとかなる⁉ なんで、そんなにドヤ顔なの?)いや、雨って上から降ってくるじゃん。おしりって下向きについてるよね。雨って、おしりに当たらなくね? じゃあ、そんな言うなら、雨がおしりに直接当たるポーズをしてみてよ。」

画面の向こう側で、男子数人がケツを天井に向け始める。

白美さん:

「じゃあ、でんぐりがえりの途中のポーズで、雨をおしりに直接当てたらいい♡」

のぶた先生:

「でんっ……! 今、すごい絵面(づら)を想像したよ。アフターうんちっちに、でんぐりがえりだね!……あ、そのポーズだと、おしりを洗って汚れた雨が、体を伝って顔にたれるんじゃないか?」



茶さん:

「あと、カミナリが落ちることもあります!!!」

のぶた先生:「ほわっ! 死ぬやん! 拳を天空に突き上げて死んだラオウのように、ケツを天空に突き上げたまま死ぬやん!!! 人生、悔いだらけだよ、それ!」

白美さん:

「顔にビニールを巻く!」

のぶた先生:

「いやいやいや、それもまた死ぬ。顔にビニールを巻くのは、絶対したらアカンやつ! 『鎌倉時代にはビニールないだろ』ってツッコむ前に、そこは注意しとくね。絶対にやっちゃダメだからね。」

白美さん:

「腰に……」

のぶた先生:「腰に?」

白美さん:

「ドーナツ型に木の板を巻く!」

のぶた先生:

「ウッドシャンプーハット!!!」


のぶた先生:

「はあ、はぁ……。ほかにもなんかありますかぁ~?(ヤケクソ)」

緑子さん:

「木だと痛いから、葉っぱで拭く。」

のぶた先生:

「ああ。いけそうだけど、松の葉っぱとか、柊(ひいらぎ)を選んだら事件ですねえ。やっぱり、おしりな探偵案件ですねえ。」

燈道さん:

「水方式じゃなくて、手で拭く! これでこうやって洗って、もう川まで歩く。」

のぶた先生:

「じゃあ、川までは手が汚いまま行く? ヤバいね。」

燈道さん:

「そしたら敵が襲ってきてもさ、うんちっちがついた手を敵に向けて、臭い臭い攻撃みたいな。」

のぶた先生:

「臭い臭い攻撃よりも、敵の弓とか刀のほうが強そうですが……。」

白美さん:

「ひもで拭く。」

のぶた先生:

「そのひもは、洗ってもう1回使うの? 一回使ったら捨てるの?」

白美さん:

「洗って使う。」

緑子さん:

「ハンカチで拭く♡」

のぶた先生:

「やっと上品な感じになった。……って、布は高いのよ。」

青蔵さん:

「藁(わら)で拭く。わらの束で。」

緑子さん:

「拭かないで……」

燈道さん:

「兜(かぶと)で……」

……


のぶた先生:「では、昔の人がどうやっておしりを拭いていたのかを見てみましょう。画面を見てください。



これは、籌木といいます。読み方は「ちゅうぼく」でも「ちゅうぎ」でもどちらでもいいです。もっと露骨に、「糞篦(くそべら)」っていう呼び方もあります。ちょっと薄めの割り箸みたいな感じですね。たとえばこっち側を手で持って、反対側でお尻をちょいちょいとして、付いてるものを取っていくんですね。博物館とかで見ることができますよ。みんなもね、籌(ちゅう)木(ぼく)でお尻が拭けるのかなと思ったら、割り箸とかで試してみると、昔の人の気持ちが分かるかもしれません。でも割り箸はトイレには流れないので、絶対トイレに流しちゃダメですよ。そのかわり、その割り箸でご飯を食べてください。」

みんな:

「しません! ぜったい。」


 2~4年生向けのクラスは、4~6年生向けのクラスとはまた違った盛り上がりをみせます。「思考力を鍛える日本史」は、教えてもらった正解を言い合うテストではないので、小学生が自分の経験などに照らし合わせて自由にアイデアを出し合えるようなテーマを選定することが重要になります。









閲覧数:8回0件のコメント

Comments


bottom of page