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誘う猗窩座と断るしのぶ ビジネスマナー入門【鬼滅の刃好き日本史講師のエッセイ 番外編1】



Why don’t you become a demon?

お前も鬼にならないか?

劇場版の印象的なシーンの一つ、敵である鬼の中でも有数の戦闘力を誇る上弦の参・猗窩座が杏寿郎を誘ったときのセリフです。

11巻で上弦の陸・妓夫太郎(ぎゅうたろう)が「お前も鬼になったらどうだ‼」と炭治郎を誘ったときのセリフも、まったく同じ英文です。

“Why don’t you”は、親しい人などを誘うときに使われる表現です。目上の人には使わないほうがいいでしょう。

しゃべるのが大好きで馴れ馴れしい猗窩座や、老いて死ぬ人間を格下扱いしている妓夫太郎の言葉にふさわしい英訳です。

なお、”Would you like to”とすれば丁寧な勧誘になります。


作中には、もっとカジュアルな誘い方も登場します。



Will you be my successor for the dojo, Hakuji? この道場継いでくれないか 狛治(18巻)


まだ人間だったころの猗窩座(=狛治)を自分の家に住まわせて、格闘技を教え込んだ師範・慶蔵の言葉です。実質的には、慶蔵の娘の恋雪と狛治が結婚することを意味していました。

“Will you”は、ストレートに相手の意思を尋ねる表現です。親しい間柄のほか、上司が部下に指示するときや、役所が書類の記入をうながすときなどに使います。この表現があると、2人の関係性がわかります。


これとの関係で、”Will you”という表現も考えてみましょう。結婚を申し込むときの決まり文句として”Will you marry me?”というものがあります。

3巻で、女好きな鬼殺隊のメンバー我妻善逸が道端で娘さんにせまっていたときは、以下のように言っていました。


Please! Please? Please, please, please! Marry me! 頼むよ 頼むよ‼ 頼む頼む頼む‼ 結婚してくれ


So I want you to marry me! Please? だから結婚してほしいというわけで‼ 頼むよォーーーッ


”Will you”と相手の意思を尋ねることなく、一方的に自分のお願いだけを連呼しているところが、いかにも可愛い女の子に目がない善逸らしいですね。


さて、勧誘に丁寧なものと無礼なものがあるように、作中に登場する「断り方」にもいろいろな表現があります。



8巻で猗窩座に鬼にならないかと誘われたとき、日本語版の杏寿郎は「ならない」と素っ気なく断りました。英語版だと、”Hmmm… No, thanks.”です。受験英語などでは基本的な断り方として習う”No, thanks.”ですが、実際にはけっこうきっぱりとした断り方です。

もう少しやわらかく断りたいときは、” Thank you, but no thank you.”や” Thank you, but I'm good.”といった表現が使われます。

” No, thanks.”は素っ気なく断る杏寿郎の様子がよく伝わる英訳ですが、日本語のように即答せず、” Hmmm…”と一息の間が入っているところが、「猗窩座の真意をはかりかねているのか?」という想像をかきたてます。英語版の翻訳者はそのように解釈したのでしょうか。


上弦の弐である童磨のナンパを断るとき、琵琶の君と呼ばれる鬼・鳴女は、




I decline. お断りします(12巻)


と言いました。この表現は丁寧でありつつもきっぱりと断るときに使う表現です。上下関係に厳しい鬼舞辻無惨の組織において、童磨よりもかなり格下の鳴女が使うのにふさわしい表現です。

なお、”decline”の丁寧さを消していくと、”refuse”(拒否する)となり、さらに”reject”(拒絶する)にいたります。


日本語版19巻で、姉の仇である童磨から地獄へのデートに誘われた虫柱・胡蝶しのぶは、12月4日に毎日新聞の広告にもなった最高の笑顔で、次のように答えました。


After you, you worthless bastard! とっととくたばれ糞野郎


“After you”は、「お先にどうぞ」という丁寧な表現で、一方で後半の“bastard”はかなり口の悪い単語です。日本語版ではしのぶの表情とセリフのギャップで彼女の怒りを描いていますが、こちらは発言の前半でも慇懃無礼の極地を表現してギャップを増幅させた、最高の英訳です。

少しだけ気になる点があるとすれば、” After you”はエレベーターに乗るときなど、相手に順番を譲り、その後自分も同じ行動をとるときに使う表現なのです。ということは、英語版でのしのぶは、自分も地獄に行くのだと考えていることになります。

「鬼滅の刃」では、人間が行く天国と、鬼が落ちる地獄が明確に区別されているので、しのぶが地獄に行くという点については、小さな違和感が残りますね。





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