世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんの「青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版です(許可を得ています)。
(前回の記事「南北戦争からみた大統領選挙」はこちら)
動画版:「大統領暗殺の歴史そして大恐慌」
中島:
歴史を紐解けば未来が見える。大人の世界史チャンネル、中島浩二です。そして私たちの道標は、河合塾カリスマの世界史の先生、青木先生です。よろしくお願いします。
前回、南北戦争までは行きました。アメリカの歴史ということで、大統領選挙、今だと大統領が誰になっているかというのがわかっている状態ですけど、私たちは知らないまま話してますので。
青木:
心配。
中島:
他国の大統領なんだけれども、その人が誰になるかによって相当やっぱり違うなという、僕、その話からすると、やっぱり国のリーダーですから、基本的には人格者であるべきだというふうに思うんです。でも討論会で、けなし合いをしていると、人格を否定し合ってるじゃないですか。それがどうなんだ、たとえば大統領候補という人たちが民主党の候補、共和党の候補って出たとしても、お互いに思うことはアメリカを良くするということでしょ?
青木:
そうです。本来はね。
中島:
方法論だけが違うんだよということでの政策の議論を戦わせるのがテレビ討論会だと思うんですけれども、すいません、もう誰になっているかわかっている状況で皆さん見ていて。
前回の話の続きをやります。南北戦争。南北戦争が終わる直前にリンカーン大統領が暗殺されますよね。
青木:
そうですね、劇場でね。ブースという。
中島:
この前確か暗殺されたリンカーン大統領も髪の毛かなにかが、オークションかなにかがかかっていて、本物らしいんですよ、本当に血もついていたというので、800何十万、意外と歴史って続いてるんですよね。
僕、思うんですけど、大統領が暗殺される国ってすごいですよね。
青木:
すごいですよね。アメリカは4人暗殺されてますからね。
中島:
そうですか。リンカーン大統領。
青木:
有名なケネディね。あとガーフィールドという19世紀の大統領。もう1人はマッキンリーという。山の名前になってるじゃないですか、アラスカの山の名前。あのマッケンリー大統領、これも暗殺ですね。
中島:
しかもそう言われたらレーガン大統領だって就任直後に撃たれて、実は普通に戻ってきたけど、戻ってきたときはかなり大変な状態で。
青木:
あれはかなり生死の境をさまよったという話ですよね。
中島:
そうなんですよ。
80年代でもそんな状態ですから、アメリカって大変な国だなというふうに思いますけれども、話を戻します。いつも横道に逸れますので。3回目にして横道に逸れまくってますけれども。
南北戦争は北軍の勝利で終わる。
青木:
そうですね。もともと南に比べても人口が多いし、工業生産力が圧倒的だったんですよ。勝った北部が南の綿花生産地帯、工業原材料の生産地帯をおさえて、なおかつマーケットもおさえて、アメリカの経済的一体化が進むんですね。アメリカは今でも内需が非常に、広いので、国内でしっかりとものを作れて、国内でしっかりものが売れる体制ができて、アメリカは工業国として飛躍していくんです。
中島:
国土が広いというのはすごいことですね。資源があって、技術があって、そして人がいる。
青木:
その努力する、努力を尊ぶ人たち。これは日本人もわかると思うんだけど。
中島:
ドリームがあって人が流入するということだから、やっぱ底力っちゃすごいですね。
青木:
それが軌道に乗り始めたらすごいものですよ。
1880年代になんと世界一の工業国であったイギリスを軽く抜いてしまうんですよね。
中島:
産業革命からイギリスがずっと世界で覇権を握っていたにも関わらず、アメリカが抜いちゃうんですね。
青木:
はい。1850年代ぐらいまではイギリスのことを世界の工場と言ってたんです。ところが30年経ってアメリカが抜いちゃうんです。
中島:
すごい。たかだか30年で。
青木:
たかだか30年です。
中島:
始まって30年で抜かれちゃうんですね。
青木:
しかも北部を中心に猛烈に工業が発展するんですね。すぐに労働力が足りなくなるわけです。どこから補填したかというと、南ヨーロッパ、たとえばイタリアとか、ギリシャとか、あるいは東ヨーロッパ、あるいはロシア、あるいはユダヤ人、ヨーロッパに住んでる。そういった人たちがずっと入ってきた。
中島:
ここがアメリカの移民大国だというところですよね。
青木:
中島:
ドンコルレオーネ。
青木:
子供のコルレオーネが。
中島:
コルレオーネ島から来ているコルレオーネ君が来るんですよ。
青木:
アメリカに来るじゃないですか。ああいうふうですよ。
中島:
本当にニューヨークに着くときに、「うわー、ここどういうところだろう」という、国を逃れてシシリー島を逃れて、映画の話。
青木:
余計なこと言っちゃった、俺。
中島:
そうやってたくさんの人たちが来て、ここにまたコミュニティが生まれるんですよね。リトルイタリーだとか。実際に日本からも行ってるんですよね。
青木:
行ってます。
中島:
たくさん日本からも西海岸のほうに行ったりとか。
青木:
そうですね、カリフォルニアにね。
中島:
ということもあるんですけれども。
青木:
そういう労働力を確保しながらますますアメリカの経済が発展するわけです。
20世紀に入って1914年に第一次世界大戦が起こると。
中島:
これが大変。この第一次世界対戦に関しては、アメリカの歴史からですけれども、なぜこんなことが起こったのかというところも。
青木:
基本的にはドイツとイギリスの対立なんですよね。なにを巡る対立かというと、世界の植民地を巡る対立なんです。基本はそうです。ヨーロッパが植民地獲得のために侵略に乗り出していきますよね。早いやつと、1テンポ、2テンポ遅れるやつがいる。早かったのがイギリスとフランス、遅れたのがドイツだったんです。ドイツがイギリスやフランスに向かって植民地を分けてくれよと。
中島:
植民地というのはアフリカ?
青木:
あるいはアジアですね。
中島:
および実はアジアなんですよね。
青木:
それにイギリスやフランスが応じないということで、植民地の再分割を巡って喧嘩になっちゃうんですね。第一次世界大戦で言いますけれども、基本的にはヨーロッパが主戦場なんです。
中島:
ヨーロッパの覇権争いなんですよね。
青木:
基本的にはね。それをアメリカは心配そうに見ているわけ。なにが心配かというと、基本アメリカを作った人たちというのは前も言ったようにイギリス系のアメリカ人が中心なんですね。プラスフランス系アメリカ人。トランプさんの祖先みたいにドイツ系アメリカ人もいますけども、基本はイギリス系、フランス系なんです。そのイギリスやフランスを助けるためにアメリカは物資を送ったり、食料を送ったりしてるんですね。プラス金も貸しているわけ。
中島:
なるほど。つまり、やっぱり祖国という思いが。
青木:
基本はそうなんですね。たくさんお金を貸したんだけども、戦争が長引いていくので、アメリカは心配になるわけですよ。
中島:
1914年から始まって、みんなクリスマスには帰ってくるよって兵隊さんは言ったらしいんですよ。それが何年も何年も。
青木:
ついでに言っちゃうと戦争が始まるときってみんなそうなんですよ。必ず思うのは2つ思うんです。「すぐ終わる」もうひとつ「絶対に勝つ」そうならなかった際たる戦争が第一次世界大戦なんですね。
中島:
話が横道に逸れても良いですか?本当に大変な戦争だったみたいで、まず兵器がどんどん工業化が進むことによって、大変な兵器になるんですね。大量殺戮ができる機関銃ができるんです。
青木:
機関銃が実戦配備されてね。
中島:
機関銃ができるということはダダダダダというふうに撃たれるから、もうなにも本当に数分間でたくさん殺されるんです。そうなるとそれをやっぱりダメだということで、塹壕を掘る。塹壕を掘ると今度はその塹壕を乗り越えていく戦車ができる。たかだか4年の間に戦争がずいぶんと変わった。
青木:
経済効率を無視して技術開発をやるんですよ。普通だったら元が取れないからそんなに研究費はかけられないよ。だけど戦争のときって戦争に勝つのが第一目標になっちゃうので、どうしても戦争に勝つためにいくらかかってもかまわないってなっちゃうんですよね。
中島:
そういう戦争が起きてアメリカとしては自分たちのというか、アメリカのたぶん権力を握っている人たちが祖国と思っているイギリスやフランスを応援すると。
青木:
そうですね。さっき言ったようにお金は貸したけども、戦争が長引いちゃうとイギリスやフランスが「すいません、返せません」と、戦争が終わったときに。こう言ってくる可能性が出てくるわけです。これを怖れてアメリカは、大戦が始まった3年後の1917年に参戦をするわけです。
中島:
アメリカが参戦するんですね。船で乗り付けるんですよね。
青木:
これでスペイン風邪が流行っちゃったという。
中島:
ここで実は、どうやらスペイン風邪と言われているインフルエンザは、アメリカの軍隊のところが実は発生元で、それで参戦したことによって、それぞれの国の部隊に感染していったんじゃないかというのが、今、大方の歴史的な検証ですよね。
青木:
トランプさんはコロナウイルスのことを中国ウイルスと言ってますけども、それを言うんだったら100年前のウイルスは明らかにアメリカウイルスなんですよね。
中島:
というふうに今言われているんです。結局第一次世界大戦が、そうやってアメリカが参戦したことによって、ドイツもそこまで力があったんですか?
青木:
力がありましたね。海軍力で言うと世界で2番目か3番目ぐらいですね。基本的に世界大戦って総力戦なので、工業生産力とかもろもろの生産力ね。トータルを考えたら最初から勝ち目はなかったなという感じですね。
中島:
にもかかわらず結局戦争を始めてしまって。
青木:
そうですね。さっき言ったようにアメリカはお金を貸して、結果どうなったかというと、アメリカは世界の工場だけではなく、世界の銀行にもなっていくわけ。
中島:
お金を貸してたからという。
青木:
それまではアメリカはどっちかと言うとお金を借りる国だったんです。ところが第一次世界大戦を通じて債務国から債権国へ変わっていくんですね。ものを作るだけじゃない、お金を貸す国としてもアメリカはナンバーワンにおどり出るわけです。
中島:
ということはそこで、つまり世界一になってしまう。
青木:
はい。パックスアメリカーナの始まりですね。アメリカによる世界制覇の始まりですね。
中島:
ニューヨークの摩天楼のビルがどんどん建つんですよ。建設現場を見てみたら、あんな高いところに命綱なしで普通にトンテンカントンテンカンやってるけれども、景気が良いからみんな国中がワーッと湧いているんですよね。
青木:
そう。摩天楼のね、英語で言うとskyscraper。意味がわからなかったんだけど、天もひっかく、クレープ。
中島:
そういうことですか。
青木:
天もひっかくというので、中国人はそれで摩天楼と訳したんですよね。
中島:
なんか良い話。摩天楼ってそういうことなんですね。
青木:
そういう意味です。天をひっかくという意味です。
中島:
skyscraperという英語をそのまま直訳してやってるよと。
青木:
そうそう。
中島:
で、景気がすごいことになるんですよね。
青木:
はい。上がっちゃったんですよね。なんだけど、アメリカの経済が調子良いので、世界中から、世界中の金持ちがアメリカの企業の株を買うんです。アメリカの企業だったら大丈夫だというので、本当に力が強いゼネラルモーターズとか、フォードとか、本当に力がある会社だけじゃなくて、アメリカの会社ということだけで、そんなに力のない会社の株もどんどん上がっていくんです。そのバブルが弾けたのが1929年の大恐慌勃発なんですよね。
中島:
ニューヨークの株式市場の大暴落。アメリカの企業だったら良いぞということで、どんどんみんなが実体がないのにお金をどんどん積んでいって、積んでいったらもっと積むという人がいて、もっと積む、それでダーッと膨れ上がっていって。あれって、僕思うんですけど、弾けるときって誰かが気づくんですか?
青木:
気づくんですよ。なにに気づいたかというと、作りすぎている状況に気がつくんですね。
中島:
ものを作りすぎて?
青木:
うん。「工場はどんどんものを作ってるけど大丈夫?俺、見ちゃったんだよ、ゼネラルエレクトリックの倉庫、2年前に作った洗濯機が新品のまま錆びついてるぜ」、「俺も見ちゃったよ」って。「フォードの工場の隣にある倉庫の2年前の新車、新車のまま錆びついてるぜ」って、それが広がっていくんです。
中島:
そしたら株を売るという人たちがいたりすると、タタタタってみんながドーンってなる。
青木:
きっかけになったのはゼネラルモーターズの株ですよ。これが1929年の10月24日に下げちゃうんですね、これがきっかけなんです。ゼネラルモーターズの株が下がった。じゃあすべての企業の株が危ないんじゃないかというので、みんなバーっと売るんだよ。
中島:
これがまた大変なことになるんですよね。
青木:
そうですね。
中島:
笑ってる場合じゃない。
青木:
笑ってる場合じゃない。
中島:
それこそユーヨークの摩天楼みたいなところに人がゴロゴロいて物乞いするんですから。
青木:
車に乗ってきた紳士が自分が破産したことを知って、帰りがけに「この車を売ります」と。その写真が載ってる教科書もありますからね。
中島:
そうですか。とか株の取引をやってた人たちが、これは不憫だと思って、リンゴ農家の人たちがリンゴを売りなさいと、そこで生活の足しにしなさいとか、それくらい。でもそこに端を発して。……15分なっちゃいましたね。
青木:
摩天楼の話までしちゃったからなあ。
中島:
アメリカの話を中心にしていてもいろんなところに話が及びますから、世界史ってやっぱりいろんなところにつながってるんですね。
皆さん世界史って楽しいでしょ?大人の世界史チャンネル、チャンネル登録どうぞよろしくお願いします。
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