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南北戦争からみた大統領選挙 【青木裕司と中島浩二の世界史ch:3】



世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんの青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版です(許可を得ています)。



中島:

先生、僕、南北戦争をあんまり知らないんですよね。当時の大統領はリンカーンというところぐらいは知ってるんですけれども、なんで北と南がああやって戦争になったのかという、大きなところって。


青木:

一番目立つのは奴隷制をめぐる対立ですね。

アメリカの北部、これは奴隷制には反対。南部は綿花畑で黒人奴隷たちの労働力が必要なので奴隷制は継続したいと。

かねてより奴隷制に反対していたリンカーンが1860年に大統領に選挙で当選しちゃうんですね。すると南部の連中があのリンカーンはいずれ南部の俺たちに向かって奴隷を解放しろと絶対に言ってくるぞと。じゃあアメリカ合衆国から分離独立をすると。分離独立の動きが高まってくるんですよ。


中島:

日本では関ヶ原が国を二分した戦いですけれども、それこそアメリカが国を二分して戦争したということですよね。


青木:

これよく入試問題に出るんですが、リンカーンは奴隷制にどういう考えを持っていたかというと、もちろん反対なんですよ。

なんだけど、南部の奴隷制に対して今すぐやめろということは言ってなかった。教科書なんかでは「急進的奴隷解放論者ではなかった」と書いてあるんですね。この部分、結構出るんです、入試に。「リンカーンは即時解放を訴えていた。YESかNOか」だとバツ。だけど南部の人たちは、そうは言ってもいずれは奴隷制をやめろと言ってくるよね。じゃあというので、南部連合という組織を作って、アメリカ合衆国から分離独立しようとするんです。これについてはリンカーンは許さないと。「分裂は死を意味する」と。分裂だけは許さない。

ナイトミュージアムという映画、ご覧になりました?


中島:

ナイトミュージアムってあのベーステイラーの。


青木:

あれの2で石像のリンカーンが動きだすシーンがあるんですよ。


中島:

動きだしますね。


青木:

陳列物が喧嘩して、リンカーンが動きだして、「君たちはなにを喧嘩してるんだ、分裂は死を招くぞ」と言うんですよね。


中島:

それはそういうことですか。


青木:

あれを聞くとアメリカ人は「だよね」って。


中島:

なるほど。日本人だとよくわからないけれども、リンカーンの名言としてアメリカ人だったら誰でも知っていると。



青木:

誰でも知っていますね。

結局1861年から戦争が始まるわけです。65年に終わったんですけれども、死者の数が65万人なんです。


中島:

だって人口がたかだか。


青木:

まだ2000万になろうかというぐらいですね。


中島:

ぐらいの、1000万台のときに60万人も、それも戦争で亡くなるというのは、一番の働き手が亡くなるということですからね。


青木:

そうなんですよ、20代の若者がね。

この65万人の犠牲者というのは、アメリカが経験した最大の戦争の犠牲者なんです。

アメリカって独立戦争からイラク戦争まで、大小200回ぐらい戦争をやってるんです。その大小200回、もちろんその中には第一次世界大戦もあるし、ベトナム戦争も第二次世界大戦も入っているんだけど、全部の死者を合わせて62万人なんです。

それよりも南北戦争というアメリカ人同士の殺し合いのほうが犠牲者は多かった。だから歴史学会でもなんと言われているかというと、アメリカが経験した最大の戦争。しかも第二次世界大戦みたいにとんでもないヒトラーをやっつけるための正義の戦争じゃなかったんですね。

今でも南北戦争ってアメリカ歴史学界で一番のポイントなんですよね。なんで我々はここまでやってしまったのかと、戦ってしまったのか。


中島:

じゃあいまだに南北戦争のことについてずっと調べている人がたくさんいるという?


青木:

たくさんいますね。

そして南部の人たちの中にはいまだに我々のほうに正義があったのではないかと考えている人たちも少なくはないと。


中島:

これってもしかしてそういうことを考えている人がいるということは、今の時代にも反映するわけですよね。


青木:

そうですね。


中島:

ということは、今の大統領選挙だとか、いまだもって黒人の人たち、黒人の人たちというか、アフロアメリカンの人たちがああやって警察から虐げられてみたいなことで、一応映像はなっていますけれども、そうなるとまた選挙の行動にも影響があるということですか?


青木:

そうですね。

この2、3年、結構話題になった話で、Black Lives Matterという。


もうひとつは、南北戦争当時の南軍の司令官、リー将軍という有名な将軍がいるんですけども、南の人にとっては英雄なんですよ。その人の像を撤去するかどうかでもって。


中島:

この前ニュースになってましたよね。それを撤去することが本当に良いことなのか、でも歴史的にこういうことがあったということを悪い部分として残すべきという話もあるんですよね。


青木:

あります。僕はどちらかというとそういう立場です。良いものも悪いものも作っちゃったものはそのまま残しておくべきだという発想なんですよね。現代の価値観から見たらおかしいから全部なくしてしまおうというのはあまり歴史的態度とは言えない。


中島:

これはなぜかというと、その間違ったことをちゃんと残していかないと、なぜ間違ったかということがまったくわからなくなってしまう。


青木:

奴隷制維持を訴える南部の人たちが英雄視した人の銅像が建てられて、それが100数十年間、ずっとみんなから畏敬の念を込めて見られていた。それはそれでアメリカの歴史なんですよ、良いか悪いかは別にして。そういうものをなくしてしまうという議論は僕は反対なんですよね。


中島:

でも本当にリンカーンという人は、(チャイムが鳴る)まあまあ、アメリカの歴史を簡単に振り返るということが土台無理です。だからこの世界史チャンネルは、今からずっといろんなことを、興味のあることを皆さんにいろいろ紹介していって、皆さんと一緒に考えていこうということです。我々も勉強していくという、先生だって勉強の途中という。


青木:

もちろん。


中島:

いつもおっしゃいますので。なのでチャンネル登録、どうぞよろしくお願いします。











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