世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんの「青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版です(許可を得ています)。
(前回の記事「キングダム 始皇帝のさわり」はこちら)
動画版:「歴代キングダムと習近平の違い?」
中島:
歴史を紐解けば未来が、先生、キングダムのさわりだけだと納得しない人が多いと思うんです。だってキングダム、みんな読んでるわけでしょ。秦の始皇帝がどうやって国を統一するかみたいな、漫画の中でそこのところは見ていただきたいと思いますけれども、統一したあと、始皇帝、皇帝って名乗るわけですよね。王じゃないということですよね。
青木:
世界の支配者。
中島:
世界というのがここだけで完結している時代ですからね。他は全然違うよって、「宇宙だよ他は」というふうなときに、法律を整備して、そして官僚制度というか、そういうこともきちんとやるわけでしょ。
青木:
そうです。官僚の仕事ってなにかというと国を支える、そういう仕事なんですね。そのためにはなにが必要かというと、人民からきちんと税金を取ると。その税金をプールして国の政治ですね、行政サービスを行うと。
中島:
道路とか全部作ったりしてるんですよ。
青木:
道路も作るし、しかも道路って雨が降ったらぬかるんじゃうじゃないですか。ぬかるんでそれが固まるじゃないですか。そのときに車輪が通ったあと、それが轍(わだち)になるでしょ。その轍が固まってしまうとそこに車輪が入ってしまって動けなくなっちゃう。というので、車輪の幅も一緒にしたんですよね。
中島:
規格の統一ですよね。
青木:
そうそう、規格の統一です。
中島:
そういうことをやって、もちろんそういう道はそのあとアスファルトになったかもしれないけれども、今の道に続いてるんですよね。それが紀元前のいろいろ整備したインフラが今もって続いているというところは絶対ありますよね。
青木:
ありますよね。万里の長城だってそうですよね。びっくりしましたよね、見に行ったけど。山の部分をずっと行ってるじゃん。実際にあれで異民族の侵入が防げたかってそれは疑問なんですよ。大きな目的としては、ここまでは俺の領土だと、この宣言なんですよね。
中島:
ということですよね。そしてこんなすごいものを俺は作れるんだ。
青木:
ちなみに今、北京に行って見られる万里の長城というのは、あれは明の時代、永楽帝という人がいて、その人が作ったあれなので、秦の始皇帝が作った万里の長城というのはもうちょっと北側なんです。
中島:
ほぼ崩れていたりとかして、中国の人たちに「これ崩しちゃいけないよ」というのはなんでかというと、観光客に売れるからということで、地元の人たちが生活のためにかなり崩してるという。
青木:
よくあるんですよ、そういうこと。ピラミッドもそうだしね。建築資材に使ったって、ダメだよ、そんなこと。
中島:
しかもそれに嘘の石ころも混じってるというから、嘘のそこらへんの石ころを買って持って帰って来てる人もいる。
話が横道に逸れましたけれども、そんなことを紀元前の人がよく考えてできたなと思って。
青木:
実行する、そのためには命令して、その命令が忠実に実行されなきゃならない。そのときに力を発揮したと思うのが文字なんですよ。複雑な組織って、国家でも会社でも全部そうだけども、文章によってしか動かないじゃないですか。口頭の命令だけじゃみんな忘れちゃうので、曖昧になっちゃったりする。文章資料は絶対、文章は必要なんです。その文章に中国人の場合は漢字を使えるんですね。漢字ってアルファベットなんかと違って表意文字で、一文字あたりの情報量が全然違うんですよね。
中島:
今うちのディレクターのヨシザワ、キョトンとしてますけども、表意文字、どういうことかというと、文字に意味があるんですよね。アルファベットはABCDEFG、26文字しかないし、あれに意味はないんですよね。
青木:
意味はないです、単に音だけですよね。それに対して、たとえば「教」という字。これ一文字で「教える」という意味になる。しかも教えるとはどういう行為かも示しているんですよ。実は象形文字でどういう形を描いているか知ってますか?
中島:
誰かがなにかを、文章を子どもに教えていることですか?
青木:
当たらずしも遠からず。基本的には先生が生徒を教えるじゃないですか、そのときにムチでしばいてるんです。
中島:
えー。象形文字というのは形を表しているということですね。形を表しているけれどもここに意味が入っているということですね。
青木:
そうそう。さっきおっしゃったように、ABCのAとか、同じ文字でも一文字あたりの情報量は全然違いますねという話です。
中島:
漢字にはそれだけ情報量があるから、それで文書にして、法律というのを各地に行き渡らせたらきちんとそれを守るということですね。
青木:
そうそう。複雑な文章を書けるからですね。法律って整合性が大事じゃないですか。整合性を整えるためにはちゃんとした説明が必要なんですよね。簡単な法律の文章ではダメなんですよ。命令を行き渡らせるためには情報量の多い漢字という文字が絶対必要なんです。
中島:
そしたらそういう意味でも中国という国は大きな国土を治めるのに、ひとつ文化として文字があったというのは大きかったんですか?
青木:
これは重要な支配のためのツールですよね。
中島:
漢民族の人たちのいろいろなものですけど、でも違う民族が治めていたという。
青木:
その時代もあります。実を言うと秦という王朝、始皇帝は、秦という王朝の建国者たちにも西方からやってきた人たちのなんらかのDNAが関係してるんじゃないかという話もあるし。
中島:
そうなんですか。一番近いところでいうと、シンといったら日清戦争の清。この人たちは弁髪の人たちだから漢民族じゃないですよね。
青木:
現在では中華人民共和国の領土になっているけども、今でいう中国東北地方、戦前で言うと満州ですね。あそこの出身ですね。
中島:
の人たちが入ってきて全部を治めたというところですよね。
青木:
あと有名なのは元ですね。フビライ・ハンの元ですね。あれはモンゴル人、モンゴル高原にてもともとは遊牧生活を送っていた遊牧民が、中国本土、農業地帯も支配した。
中島:
これだけの広い国家をいろんな人たちが治めてきたという歴史があるんですね。
青木:
よく中国四千年の歴史、三千年の歴史と言うけども、漢民族が支配した時代、もちろん長いけど、いわゆる漢民族から見ての異民族が支配した時代も結構長いんです。特に秦のあとに漢という国ができて、前漢後漢で400年間支配するんです。
その後漢が紀元後220年に滅びて、それ以降300年間ぐらいは中国の北方のモンゴル高原や西側のチベット、あるいはその周辺地帯から来た異民族、彼らによって黄河流域を支配されちゃうんですよ。
中島:
一番おいしいところですよね。
青木:
はい。喧嘩に関しては遊牧民は圧倒的なんですよ。
中島:
強かったんですよね。
青木:
なんで強いかというと馬に乗って生活してるので騎馬軍団が圧倒的に強い。
中島:
走って逃げるよりも移動の距離ですよね。
青木:
そうそう。やっぱり戦争の本質ってスピードなんですよ。これを言うと生徒から質問があって、「でも先生、三国志とか読んでると中国の軍団だって騎馬軍団があるじゃないですか」って。あるけどレベルが違う。
中島:
馬とともに生活している人と、軍隊で騎馬軍隊を作ったのじゃ全然違うということですね。
青木:
決定的に違うのは遊牧民って馬を走らせて、馬を走らせながら弓を射ることができるんですよ。普通、手綱を持って馬をコントロールするじゃないですか。ところが弓を射るとなると両手を手綱から離してつがえたわけ。自動車とか自転車で言う手放し運転ですよ。これをやりながら弓をつがえて撃って当てることができる。中国の漢民族の騎馬軍団も確かにあるけど、彼らは馬に乗って移動するだけで、戦うときには。
中島:
馬から降りるんですね。
青木:
降りる。あるいは馬の上で戦うときには槍を持ったり刀を振り回したり。これはなかなかできない。
中島:
両手離しはできないと。
青木:
できない。これは決定的な違いですよね。ただ唯一の弱点はなにかというと、穀物を生産している地域を支配していないので、人口があんまり増えないんです。食べてるものがお肉でしょ、そんなに保存性は高くないんですよ。穀物を生産している地域ほどは人口が伸びてくれないという。
中島:
これは不思議なというか、歴史の妙というか、すごくおもしろいところだなって思うけれども、戦争をすると強いけれども国としては大きくなかなかなりづらいということなんですね。
青木:
たとえば世界史の教科書なんかでも、モンゴル人が支配した領域って中国と世界中の広い地域を支配してるんですよ。でも本当にその土地に根差した支配をしているかというとしてないんですよ。基本的には商業ルートを支配しているだけとかね。さっきフビライ・ハンの元という国の名前を出しましたけども、元だってモンゴル人の数って少数なので、中国人がたくさん住んでいる農村の津々浦々まで支配するってできない。もっと言うと、農民をどうやって支配して良いかわからない。この土地がどれぐらいの生産力があって、どういうものがとれてそれがいくらになるって、税金を取るためにはこいつらがどれくらいお金を持っているか理解しないとダメじゃないですか。ところがその地域がどれくらい豊かか貧しいかよくわからないんですよ。だからあんまり農村まで出しゃばっていかないんですね。支配の末端には常に中国人のお役人がいるんです、漢民族のお役人。
中島:
ということは緩やかな支配と。
青木:
実際はそうですね。
中島:
ある程度君たちで治めて良いから、これぐらい払ってくれれば俺たちはなんだかんだ言わないよと。その代わりこれぐらいは払ってくれという支配ですよね。
青木:
実際はそうですね。
中島:
それが今はだんだん変わってきていると。
青木:
前回も言いましたけど異民族に対する支配、少数民族に対する支配って非常に緩やかな国だったんですよ、中国って、いろんな王朝。羈縻(きび)政策という言葉があって、羈縻というのは馬とか牛をゆるやかに棒に結わえつける。
このへんの言葉で「きびる」という言葉があるじゃない?あれに通じると思うんだけど、
羈縻政策、牛馬をゆるやかにつなぎとめるぐらいの支配で、がんじがらめに支配しないというのが中国の異民族支配の伝統だったんです。ところがそれが習近平体制になって特にいけない方向に間違いなく行っていますね。
中島:
実際にいろんな歴史を見ても、やっぱりゆるやかな支配じゃないと、どこもダメになってますよね。
青木:
そうです。どうしても強い支配になると武力が出てくるんですよ。武力による支配というのは、その一瞬だけを見ると強く見えるんですね。両手に武器を持って「殺すぞこら」と。その瞬間だけ見ると強そうだね、支配されている人は弱そうだねと思うけども、ものすごい力がいるんですね。
中島:
ずっとは続かないですよね。
青木:
続かない。高校生諸君も見てるかな。体罰を振るう先生嫌いでしょ?体罰を振るう先生ってその瞬間はその先生が強く見えるけども、あなたたち、ムカつきますよね。その支配は長く続きませんよね。
中島:
だからやっぱりお互いが理解して、お互いが尊重しないと国も続いていかないと。
青木:
そうそう。まったくそう思いますね。これは中国だけじゃなくて、イスラム世界で広大な地域を支配した王朝、アッバースってあるんですけど、それもそうだし、アケメネス朝ペルシア帝国なんかもそうですね。ローマもそうです、ローマ帝国。
中島:
ローマ帝国ってあれだけ広い地域を治めてましたよね。
青木:
だけども、基本的にあんまりイタリア人以外の地域のコミュニティは介入しない。オスマン帝国もそうですね。でなければやっていけないです。
中島:
ということは、今からの世界ってどんなふうになっていくんですかね。
青木:
はっきりしてるのは中華人民共和国が目指すような体制だとダメですよ、無理です、あれ。
中島:
いろんなところを、今南シナ海とかいろいろ言ってますけれども、なかなか難しいだろうと。
青木:
無理ですね。国内においても新疆ウイグル自治区、あるいはチベットに中国風の、漢民族風の支配を押しつけようとしてもそれは無理ですよ。
中島:
もともとそこに住んでいる人たちは気候風土でずっとやってきて。
青木:
そうそう。その地域の伝統慣習を無視した支配というのは長続きしないです。私の尊敬してやまない中村哲先生、ちょうど1年前ぐらいに。
中島:
ちょっと待ってください。中村哲先生。
青木:
アフガニスタンで亡くなってしまったんですが、あのかたが言っていたのは、自分はキリスト教徒だけども、イスラム世界で救援活動をやるときに一番大事だと思ったのは地域の文化を大事にすると。自分たちの価値観を押しつけない。これは政治支配にもつながっていくと思うんですよね。中村先生。
中島:
本当ですね。中村先生の話になるとちょっと熱くなって、先生はずっと河合塾でも中村先生に来てもらって講演してもらっていたという。
青木:
1年おきに来ていただいて、30回ぐらいやっていただきましたかね。
中島:
争いを終わらせるというか、平和な世の中にするためにはまず食うことだといって、一番最初は医療支援で行ったにも関わらず、重機を操って田畑を。
青木:
水を確保してね。
中島:
きちんと整備したというそんな人なんですよね。
青木:
中村先生もそうであったように地域の伝統文化を大事にする。支配はそうじゃないとダメですよ、習近平さん。
中島:
ということです。チャンネル登録よろしくお願いします。
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