世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんの「青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版です(許可を得ています)。
(前回の記事「【ロシア近現代史②】世界初!社会主義国家誕生」はこちら)
中島:
歴史を紐解けば未来が見える。大人の世界史チャンネル中島浩二です。そして河合塾のカリスマ講師、世界史の青木先生です。よろしくお願いします。
青木:
お願いします。
中島:
今ロシア、ソ連、ロシアを見ていってる最中ですけれども、レーニンが実際に自分たちが思うような経済システムから政治システム、ただそれは本当にいろんな国がソビエト・ロシアを干渉してしまって大変なことになったからというところまで話は行きましたけど。
青木:
レーニンという男なんですけど、前回も言ったようにもともと彼の率いるボルシェビキという政党自身がインテリゲンチャを中心とした政党で、彼自身も裕福な家の出身なんです。お兄さんも革命運動をやってて、そういう雰囲気のあった家みたいですね。
中島:
裕福な家なんだけれども、言っても貧富の差に。
青木:
我慢がならなかったということですね。
中島:
ということですよね。逆に裕福な人たちはそのまま行くという人たちもいるんですけれども、そうじゃない二世とか三世とかの人もいらっしゃるんですよね。
青木:
褒めすぎになるかもしれんけど人の痛みがわかる人だったのは間違いないでしょうね。権力を取ること自身が最終目標じゃなかったと思います。
中島:
良い国を作る、社会を作るということですね。その自分たちの社会システムを確立しようというふうに思っていたときに、国がむちゃくちゃになって、それで共産主義という市場の資本主義とはまったく違うコントロールした国づくりでしかやっていけなくなって。
青木:
そうですね。それでなんとか内戦を乗り切ったわけです。干渉戦争を乗り切った。ところが生産がなかなか上がらない。どうしたかというと、一部資本主義を復活させるんです。たとえば農民たちに、国に対して半分ぐらいは穀物を出してくれ。残りの半分は自由に処分してよろしい。あるいは、大企業はさすがに国有だったけども、中小企業に関しては私的な営業、私の営業を認めると。これは新経済政策といって、ネップというんです。資本主義的要素を導入して生産を回復するわけです。回復する途上でレーニンがたぶん疲労困憊してたんでしょうね、亡くなっちゃうんです。脳卒中の発作で倒れて、1922年に倒れて、ほとんどしゃべることもできなくなっちゃって、2年後に亡くなるんです。それと前後してスターリンという男が共産党のリーダーとして君臨をしていくようになる。
中島:
いわゆるスターリンという人は悪い話しか聞かんですね。
青木:
はっきり言って20世紀最大の悪人ですね。ヒトラーかスターリンですね。
中島:
もともとレーニンは違う人を後継にしようと思っていたらしいんですよね。
青木:
トロツキーという男とか、いろいろ何人かおったらしいけども。
中島:
レーニンはトロツキーという人を後継にしようと思っていたけれども、スターリンが、レーニンが倒れちゃうことによってうまいことやってという、映画とかにもトロツキーが悪いみたいな宣伝映画みたいなのを作ったりとか。
青木:
嘘八百の映画を作りますよね。トロツキー自身はレーニンと同じで革命家なんですよ。特に内戦の時期にトロツキーって軍隊を率いて、彼らが言う反革命勢力、あるいは干渉軍、外国の。それを次々と打ち破ったりする。
一方でスターリンはなにをやっていたかというと、彼は党組織をしっかり抑えるんですね。ついたポジションが書記長というポジションで、以前ここでも言ったかもしれませんけども、自民党で言うなら幹事長にあたるポジション。党の人事を決定するポジション。
中島:
ということは誰も逆らえないわけですよね。
青木:
そうです。そのポジションをちゃんと握って、この書記長というポジションが共産党のナンバーワンのポジションにだんだんなっていく。人脈を作り、だんだん対立する人たちを黙らせて、時には暴力を振るいながら。1920年代の後半にスターリンが独裁権力を握っちゃうんです。
中島:
1920年代の後半ですね。これが密告制度とかもすごかった、ソ連のいわゆるブラックジョークみたいなので、すごいいろんなものがありますよね。本当に反体制みたいなことはすぐに情報が入るような。
青木:
冗談も言えないような。ブラックジョークも言えないような体制にしちゃうんです。なんでそんなふうな体制にしたかというと、スターリン自身が人を信用することができない。小さいときから父親の激しい暴力の中で育ってきて、暴力を振るわれた人が必ずしも暴力的になるとは言わないけど、そういう中で育ってきて。
中島:
心に傷を負いますよね。
青木:
負いますよね。人を信じることができない。そういう人間が権力を握っちゃうと、人を信用することができないからいつも疑ってるわけですよ。ちょっとしたミスで、たとえば目を伏せただけで「俺をなんとかしようと思っているだろう」と。「やましいところがあるんだろう」とかって粛清されちゃうんです。
中島:
そういう人が権力を握っちゃうと余計ですよね。
青木:
もうたまらないですよ。特に30年代に入って、スターリンの政敵が次々と粛清されていくわけですよね。数も今研究の途中なんだけども、少なく見積もっても数十万人。彼に歯向かった、もしくは歯向かったというふうに疑いをかけられて処刑されていくんです。
中島:
こんなの、しかも自国民ですからね。
青木:
特にスターリンが怖がったのがなにかというと赤軍なんです。軍隊が自分に歯向かったら太刀打ちできないというので、軍司令官の中で「こいつは疑わしいな、俺に歯向かおうとしてるんじゃないかな」と思ったやつは次々と処刑していく。当時ソ連赤軍は5人元帥がいたんです。そのうちの3人が処刑。100人ぐらい大将がいたけども、そのほとんどが処刑されているんです。
中島:
処刑するとなったら、その次にその任に当たる人をまた選ばなきゃいけないわけですよね。
青木:
そうです。だから赤軍の質がガーンと落ちていっちゃう。ちなみに言うと赤軍を怖かった理由って2つあって、1つは軍自身が大きな力を持っている。もう1つは赤軍を作ったのは誰かというと、スターリンの最大のライバルだったトロツキー。
中島:
そうなんですよね。ものすごくトロツキーシンパがいるんじゃないかという、ずっと思いですよね。
青木:
ほとんどいなかったんですけどね。ただいったん疑いだすと止まらなくなっちゃうみたいですね、あの人。
中島:
そのときにもうソ連というのでいろんな国も入っていたわけですか?
青木:
そうです。言い忘れたけど1922年に共産党に指導されたソビエトが主導するロシア以外にベラルーシ、ウクライナ、ウクライナの南側のザカフカーズ。今はグルジアとか、ジョージアか、アゼルバイジャンとかいろいろ分かれてるけど、ザカフカーズ。4つの国が連携するわけです。共産党に指導されたソビエトが運営するロシア、ウクライナ、ザカフカーズ、ベラルーシ。この4つの国が合併して連携してソビエト連邦を作るわけです。
中島:
なるほど。しかもそこからまたいろんな国が参加していくわけですね。
青木:
というか分かれていくんです。ザカフカーズに関して言うと、イスラム教徒居住地域とかキリスト教徒居住地域、それが。
中島:
分かれていって、ジョージアとかいろんな国になるわけですね。
青木:
ただそのときに、これはスターリンが悪いやつで、ザカフカーズって石油の産地なんです。そこがソビエト連邦から脱退するのが怖かったものだからどうするかというと、ザカフカーズを分断するときに、キリスト教徒が住んでいるところ、イスラム教徒が住んでいるところをきっちり分ければよかったのに、国境線をぐちゃぐちゃに分けてしまう。
中島:
それは石油の利権だけということですか?
青木:
そうです。アゼルバイジャンなんてイスラム教徒が中心なんだけども、そこにキリスト教徒の居住地域をうまく入り込ませる。ジョージアもそうです。キリスト教徒が中心なんだけども、そこにイスラム教徒の居住地域をちょっと入り込ませてケンカが起きるようにする。
中島:
うわー、なんですか、それ。
青木:
憎しみ、憎悪、こういったものを組織して国を運営していったという感じなんですよ、スターリンは。
中島:
えー。最悪ですね。
青木:
最悪。政治家もいろいろいるけども、人を憎む気持ちみたいなものを組織する政治家というのは最悪ですね。
中島:
それで支配するということですね。
青木:
その典型がスターリンとヒトラーなんですよね。
中島:
それでソビエト連邦というのができて、そこからどうなっていく?
青木:
経済体制は前回も言ったように国民の欲望をコントロールする体制でずっといく。そうせざるをえないような状況というのは常にあって、革命直後に内戦が起こったり干渉戦争が起こったりする。また攻めてくるんじゃないかという気持ちがいつもあるわけです。
中島:
恐怖感がですね。
青木:
はい。だから国家の富みたいなものを軍事力に割かざるをえない。国民の生活よりもまず国を守るため、あるいは自分たちの政権を守るための軍事力にどうしても大きな予算を割かざるをえないという。
中島:
ということは国は貧乏なまま?
青木:
まんまです。国民は貧乏なままです。国も国民もね。
中島:
ここからまた、その次は第二次世界大戦というところから話をして良いですね。
青木:
はい。
中島:
わかりました。次回ソ連がどんなふうに第二次世界大戦に関わって、どういうふうになっていったかというところをお届けします。
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