世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんがお送りするYouTubeチャンネル「青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版を紹介しています(許可を得ています)。
中島:
歴史を紐解けば未来が見える。大人の世界チャンネル中島浩二です。そして、河合塾のカリスマ講師、世界の青木先生です。よろしくお願いします。前回は、天皇が日本中をいろいろ巡幸なさってたっていうところで。
青木:
行幸されてね、今は行啓と言ったり、まあ戦後は巡幸と言ったりするんですけれども。で、そのさなかの1月22日に、オーストラリアが戦犯のリストを公表しました。で、そこの中には昭和天皇の名前も入っていた。その3日後にマッカーサーがアメリカの統合参謀本部、その議長であるアイゼンハワーに「天皇には責任はない」と、、、で、「そういう方向性でアメリカ政府の議論をまとめてくれないかな」、みたいなことを匂わせるような文章を発表するわけですよ。で、とにかく天皇起訴して罪に問うて処罰したりしたら、もう占領行政は終わりだよと。
中島:
だから日本が、もうあの、どうなふうな感じになっちゃうか分からないってことですよねえ。
青木:
まあ文章をちょっと引用するとね。「天皇を起訴すれば日本国民が大きく動揺し、反響は計り知れない。占領軍を王幅に増強することが必要になってくるだろう」と。でまあ、占領行政も、、、何度も言いますけど、上手くやって行くためには、やっぱり天皇の存在は絶対欠かせないんだと言う中で、まあ、これ前回申し上げましたけれども、極東委員会の日本における事務局である対日理事会が実際に活動を開始するんですね。で、開始したらマッカーサー司令部は自由に動けない。そういう中で、マッカーサー元帥の懐刀と言われた民政局の局長、これホイットニーという人なんですけどね。
この男がマッカーサーに、まだ対日理事会は本格的な稼働を始めていないから、今だったら我々が作った案を日本国政府に提案することは可能なのではないですかと。ただし、時間は限られてますと。
中島:
なるほど。
青木:
多分2月の中旬か、下旬ぐらいに対日理事会が動きを始めると。で、前回も言いましたけども、彼らは自らの憲法は対日理事会、極東委員会の憲法案を作るつもりでいるらしいと。それが世に出ちゃったら我々は動きとれないから、彼らの案が出る前に我々は、GHQ自らで案を作って、それを日本政府に指し示してはどうですかと。それだったら別に違法ではありませんよと。対日理事会や極東委員会を無視してマッカーサーが動いたことになりませんから、今だったらそれができますよと。で、マッカーサーはまあ同感なんですね。確かにその通りであると。で。その2日後にですね、マッカーサーはGHQの主だったメンバーを集めて、まあ20数人を集めて、君たちでこれから日本国憲法の原案を作ってくれと。なおかつ、ホイットニーがマッカーサーに進言した同じ日に、、、2月1日に政府が作っていた憲法草案が毎日新聞によってすっぱぬかれるわけです。
中島:
ええええ~~~~!すごい。
青木:
タイミング的にはちょっとね。出来すぎてる気がするんだけど、、、
中島:
あ、だから、これなんか、あの裏で、、、いろいろわかってる人間がしたような感じもあるってこと。。。
青木:
あの。 記者が来るところにわざわざそれを置いていたっちゅう話もある。まあそこはちょっと確認できなかったけど。その毎日新聞がリークした政府案、あの委員長の松本烝治さんを中心する案では、第一条「日本国は君主国とする」と。第二条「天皇は君主にしてこの憲法の条規により統治権を行う」と。だから主権在民、国民主権じゃないんですよ。大日本帝国憲法とほぼ一緒だから、まあ松本さんもね、その幣原喜重郎も吉田茂も、その憲法、、、大日本帝国憲法根本的に変える必要はないと。修正でなんとかやりきれるんじゃないかっていうようなことを考えていたみたい。
なぜかというと、こうして我々は一応日本国政府を名乗っていられるでしょうと。ナチスドイツとは違うでしょ? だから憲法も、大日本帝国憲法もそんなにいじらなくても、やっていけるんじゃないかなと。で、ちなみに第29条にはこう書いてあるんですね。「日本国臣民は、臣民は臣下の臣臣民、「日本国臣民は言論著作印稿、これは印刷物の発行ですね。集会および結社の自由を有する。公安を保持するため必要な制限は法律の定むるところによる」と。要するに、無条件に言論の自由なんかありませんよと。我々が作る法律の範囲内でやってくださいねと。
中島:
もう本当に前の憲法とほぼほぼ変わらない。
青木:
全く一緒です。ちなみに日本国、、、今の日本国憲法だともう無条件ですね。言論の自由なんかは。なんの条件もついてないですね。で、これが出てまずマッカーサー司令部が「もうダメじゃん」と。
中島:
いや、もうあいたーって。いや俺、国民どうだったのかな?
青木:
これはね、やっぱり、あの前回ご紹介した憲法研究会の高野岩三郎、ああいった人たちの議論っていうのは、公にやってされていて、結構支持を集めてる。
中島:
あ、そうですか?では、かなりやっぱ意識の高い感じだったんですね。やっぱあの国民自身も。
青木:
あのそういったものを、やっぱり国民感情をまあ、見事に統合して、憲法研究会の憲法案ができたと。そういう印象を僕は思ってますね。
中島:
いや、だから僕、今こここう70何年経って振り返っているから、僕が違和感を感じたのかなと思ったら、当時の人たちもやっぱり違和感を感じたってことですね。
青木:
やっぱり大日本帝国憲法まんまじゃんと。で、マッカーサー司令部っていうか、まあ、特にマッカーサーとしては、いや、これでオーストラリアとソ連が納得するわけなかろうと。
中島:
いやだから立場が違うから、よく分かってないんでしょうね。
青木:
でまあ、先ほども言ったように、2月3日にまあメンバーを集めて、20数人集めて、GHQの憲法草案の作成を依頼する。部下に命ずるわけですね。で、期間は1週間。
中島:
うわあ、たかだか1週間ですかあ?
青木:
まあでも一人が全文を作るわけじゃなくて、いろんな専門家がいるんで、その例えばベアテ・シロタさんっていうね、22歳のユダヤ系アメリカ人の女性も、この憲法草案の作成に参加するわけです。で、彼女が担当したのは女性の権利。
中島:
ああ、なるほど。いや、もちろんのことながら、だからあの平和条項だとか、天皇に関する、その象徴っていうところをつかさどるっていうか、やっぱチームチームで、、、やっぱあるでしょうからね。
青木:
そのチームに対してマッカーサーが指示したのは、通称マッカーサー三原則と言って、、、基本この3つは守ってくれと。いの一番に何があるか? 「天皇は国家の最高位の地位にある」と。これがいの一番なんですよ。まあ、最高位の地位というと、今の日本国憲法の象徴という表現がね、まあどんな表現になるかは、ちょっとあれだけど、とにかく天皇制は温存するんだという。二番目「国権の発動たる戦争は廃止する。そして戦力不保持で、自己の安全を保持するための手段としての戦争も放棄する」と。要するに、防衛手段としての戦力も放棄する。この辺りは細々ご紹介している憲法研究会のものにかなり近いと、そして三番目の原則は「封建制度の廃止」。まあ、封建制度の廃止というのは要するに、旧来の日本社会のあり方については、ある程度改変せざるを得ないと。例えば、家族の中で父親がめちゃくちゃ強いとか、そういったもの。まあ、旧社会の非民主主義的な秩序。これは廃止する。特にまあ男女同権ですね。でこの3つだけ示して、あとは「よきにはからえ」という感じだったんですよ。で、実際に1週間後の2月10日、GHQの憲法草案が完成するわけですね。
この辺り本当ね、もう時間との闘いなんですよね。ちなみにさっきご紹介したベアテ・シロタさんですね。当時22歳でしょ。やっぱ自分の知識だけで憲法案を作るのはやっぱ不安があったりするので、いろんな国の、その男女同権で。日本語のできる通訳と一緒にいろんな図書館を回ったらしいんですよ。で、これも面白いのは、1つの図書館で憲法関係の本を持って行ったら、「あ、GHQかなんか憲法を調べているよ」となっちゃうんで、ある図書館ではアメリカの憲法、ある図書館ではイギリスの憲法と、、、まあ、当時イギリスの憲法はないか。で、いろんな国々の憲法を一冊借りてきて、それを読んでいて。なおかつ日本の女性はこうあるべきだと述べて、ベアテ・シロタさんってお父さんがピアニスト、、、世界的に有名なピアニストです。で、芸大の先生やってらっしゃったんですよ。今の東京芸大ね。だから在日経験もあって、日本語ペラペラなんです。で、女性があの戦前の日本で虐げられた地位にいるということを彼女は感じてたとで、そうならない様な日本社会をつくりたいねみたいなことで、その女性の権利の条項の草案作成に頑張るわけ。
中島:
いや、それに。難しいのはたぶん、まあ、結局GHQが作るってことになると、原文は英語でしょうから、それをどう日本語に訳すかっていう。
青木:
翻訳作業は大変だったんですよ。
中島:
いや、だって。いや、僕よくできてるなと思うのはやっぱり「象徴」なんですよね。よくこの言葉になったなあっていう。
青木:
よく思いつきましたよね。
中島:
いや、だから。他のこともいちいちやっぱり結局、違憲合憲っていうのが、ずっとその後の、やっぱ日本で出てくるわけでしょう。
青木:
翻訳作業もね30数時間かかって、もうヘトヘトだったんですよ。だから、その前にGHQが作った憲法草案を政府の人たちに見せなきゃいけないわけです。で、草案が出来たのが2月10日で、その2日後、2月12日に、まあさっきご紹介したマッカーサーの部下ナンバーワン、ホイットニー准将、民政局の局長と、その次長であるケーディスです。
この2人が憲法草案を持って、日本政府の代表である幣原さんと、首相の幣原さんと、吉田茂ですね。そして憲法草案、、、政府の憲法草案をつくった松本烝治さん、法学者。で、この3人に見せたわけ。で、みんな英語できるんで、「 30分くらい時間あげますから、とりあえず見てくれ」と。で、日本政府の3人がパッと開いた瞬間に、みんな顔面蒼白になった。で、まあじっくり読んでくれっていうので、ケーディスとホイットニーは席を外すわけです。で30分後に帰ってきて、まだみんな、、、もうやっぱり自分たちが想定した範囲を超えてたわけですね。
中島:
まったく違うものだから。
青木:
全く違う。確かにエンペラーの名前は書いてあるけれど。あのまあ、確かにまあ、当時はまだ「シンボル」という名前ではなかったと思うんだけども、そのいわゆる主権者ではないと。で、もう明らかにその日本政府のトップスリーが、その狼狽してるわけです。
中島:
いや、だって。結局国体の護持っていう、、、そこのところを約束してくれたっていうところがあったのに、、、「えっ、これ国体の護持になるの?」っていう。。。いや、僕がもしその立場だったら絶対そう思うと思います。
青木:
で、読んでくれましたかと、ホイットニーとケーディスが聞くわけですよで。重ねて彼らがなんて言ったかというと、「この線に沿った憲法でないと、天皇陛下は守れませんよ」と。
中島:
ああ、なるほど。
青木:
これたぶんね。じゃあ脅迫でもなんでもない。偽らざる感情なんでしょう。
中島:
いやまあ、実際そうでしょう?
青木:
ですよ、「じゃあ。あなたがたもね、天皇陛下には、天皇制については存続していきたいでしょう?」と。いや、実際に彼等がのちに語ったところによると、そのまあ、天皇陛下のいない日本というのは、、、やっぱり日本国政府のトップとしては考えられないと。もうごくごく自然に当たり前の存在なんで、それが居ない世界なんてのは考えられなかった。ところが、主権者では天皇はなくなってるわけですね。で、どうしたもんかって、、、さっき言ったように、でこの条項も特に平和主義と民主主義だから、天皇から政治的実権を、奪ういうか奪い取るというか、、、削除すると。これがないと、結果として天皇陛下を守れませんよと。これがある意味で殺し文句になるんです。で、「じゃあ考えますから」って言って、政府はその3人だけじゃなくて、閣僚全体で議論するわけです。その総理大臣の幣原さんが戦争放棄、民主主義の諸規定を、いろんな規定を受け入れないと天皇の地位は守れないというケーディスの言葉、それにホイットニーの言葉を伝えるわけですね。すると、ほかの閣僚たちも、もう止むを得ないだろうということになるわけです。で、草案を見せられた2週間後ですね。2月26日に外務省でGHQ草案の翻訳作業が始まるわけです。
中島:
うーん。
青木:
もちろんそこにはその草案をつくったGHQの連中もいて、訳語が正しいかどうか、適切かどうかについて、いろんな議論が展開されていくわけです。ええまあ、あの内容的にはね、特に女性の権利等々については少し後退したところもあったらしいんだけども。要するに、具体的なところを憲法で決めないで、まあ、原則だけ憲法には書いて。具体的なものについては後に法律でこれを定めると。みたいなものを付け加えていったけども、ただ、女性の権利に関してはですよ、結婚は両性の合意でのみ規定されると。これね、アメリカ合衆国の憲法にも書いてないんですね。
中島:
なるほど、なるほど。
青木:
民主主義の国アメリカなんですけども、その民主主義の国であるアメリカの女性の地位よりも、日本国憲法の女性の地位の方がはるかに民主的であると。それをね、わずか22歳のこのベアテ・シロタさんっていう女性が草案を作っていうところが、なんかすげーなと言うふうに思います。
中島:
まあ、感じていたところがあるんでしょうね。だから一番新しい憲法だから、一番やっぱり当時世界でイケてる憲法、、、っていう言い方でよかったんじゃないかなと思いますけどね。
青木:
結局翻訳作業は、それから1週間かかってますね。まず外務省で翻訳の草案を作って、それをGHQの連中に見せて、突き合わせる。結局3月の6日に憲法草案が確定して、これをすね、新憲法について、天皇が新しい憲法ができましたのでよろしく、と言うことで、ええ、国民にそのまあ、あの程なくして公表しますから、天皇の口からこれを言わせるわけですね。ちなみに、その前後には、いわゆる東京裁判その開廷に向けてのですね。各国から派遣された検事、あるいは副検事の第一回の話し合いももたれていると。とにかく彼らが動き出して、、、その東京裁判もそうだし、極東委員会もそうだけども、彼らが動き出す前に、もう戦後の日本国の背骨を作ろうと。
中島:
うん。
青木:
本当に、なんかもう今から考えるとタッチの差。
中島:
という感じですね。いや、ですね。もうなにかがちょっと遅れてしまったら、もう全然違うものになっていただろうなということですよね。
青木:
ね、ここはね、トップが軍人でしょう? やっぱりトップダウンで、、、軍隊って基本民主主義の組織じゃないじゃない。だからトップダウンで即決できる体制にあったっちゅうのが、結果としては幸いしたのかなっていう気はしますね。……チャイムなったっけ?
中島:
チャイムなりました。じゃあ、憲法については、もうちょっとお届けします。
青木:
はい。
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