世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんの「青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版です(許可を得ています)。
(前回の記事「大統領暗殺の歴史そして大恐慌」はこちら)
動画版:「大恐慌の後、人気大統領ルーズベルト登場!」
中島:
歴史を紐解けば未来が見える。大人の世界チャンネル、中島浩二です。今回も私たちの道標は河合塾の世界史のカリスマの先生、青木裕司先生です。よろしくお願いします。
アメリカの大恐慌まで前回話をしました。とんでもない経済的なダメージ、ダメージというか、もともとみんながワーッと熱狂しただけですけれども、それに端を発して世界中が大変なことになるんですね。
青木:
そうですね。特にヨーロッパは大きな影響を受けますね。第一次世界大戦後のヨーロッパの戦後復興ってアメリカがお金を貸してあげているんです。それがストップしちゃったので、ヨーロッパ中が経済困難。特にドイツですね。
中島: だってドイツは戦後の補償だってあるわけですよね。
青木:
そうそう。それが全部お金が出てこなくなっちゃった。失業者があふれて、国民全体がパニックになったところにヒトラーが入ってくるわけですね。「この危機を乗り切れるのは僕だけだよ」と。その話はいずれ。
中島:
そうですね、ヨーロッパの話ですから。
アメリカのその大恐慌をどうやって脱出するかというところで出てきたのがフランクリン・ルーズベルト大統領。
青木:
はい。民主党の大統領ですね。それまでの1920年代って、共和党の大統領が3代続いたんですよ。フーバーという大統領のときに大恐慌が起きるんですけども、彼は基本的になにもしなかったんです。経済には自然の回復力があるとか言ってね。唯一やったことがなにかというと、大恐慌の大きな原因って、会社が商品を作りすぎて、でも売れていない。だったらどうするか。これ以上アメリカ国内で商品が余りすぎないように、外国から入ってくる商品をストップさせようというので、めちゃくちゃ高い関税を輸入品に対してかけたんですね。
中島:
今の時代のような。
青木:
どこかのトラちゃんと。
中島:
どこかのトラちゃんと。今、収録しているときが、トラちゃんが2期目をやれるかどうかというのがわからない状態で今やっていますけれども、そういうふうなことをフーバーという人がやるわけですね。
青木:
そうですね、議会と一緒になってね。
中島:
当時の経済学者の人たちも、市場原理主義という、マーケットには不必要に介入しないというのは経済学の中では結構あるんですよね。
青木:
基本ですよね。共和党なんかは特にそうですよね。
結局ほとんどなにもしなかったんです。なにもせずに何年も経つうちにアメリカ国民が共和党をもうダメだというので、1932年の大統領選挙で久々に民主党大統領が選ばれたんです。
中島:
それがフランクリン・ルーズベルト大統領。
青木:
アメリカの歴代大統領の中でも非常に評価が高くて、だいたいランキングをつけると2番目が3番目なんです。1番はリンカーン。これは不動。
中島:
それはやっぱり南北戦争という。
青木:
はい。あの危機を乗り切ったということですね。悲劇的な死もあったし、1番です。
2番目にワシントンかフランクリン・ルーズベルト。いわゆるニューディール政策というのをやるわけです。ディールというのはトランプのゲームのときにカードを配り直す。これがディールです。新しいカードを配って、「さあ新しい勝負が始まったぜ」ぐらいの意味合いなんです。なにをやったかって、再三言っているように、大恐慌の一番大きな原因って作りすぎだったんです。我々、生きるために必要なものを作って運んで消費してますよね。これは経済活動。作りすぎが大きな原因となって大恐慌が起きたんじゃないか。ルーズベルトがなにをやったかというと、作ったものを買ってくれる人、消費の現場にいる国民、彼らが元気になるような政策をやっていこうと。彼らは元気じゃない。なぜかというと、経済がパッとしないので職を失った人たちもたくさんいるというので、失業した人たちには国が責任を持って公共事業なんかをガンガンやって、たとえばダムなんかを作るとか、そこに失業者を吸収してみんなに給料を与えて、物を買える状態をつくる。
中島:
これがいわゆるいろんな国で言われるニューディール政策じゃないけれども、公共事業をやって経済を回復させる。
青木:
そうですね。難しい言葉で言うと有効需要の創出。
ケインズの言葉ですけども、それがルーズベルトの時代に始まっていくわけです。それまでの共和党の政策というのは、作る運ぶ消費するの中で生産がポイントであった。経済活動の出発点を作ることなので、誰が作っているかというと、それは大企業だろうと。フォードとかゼネラルモーターズとか。そういった連中が元気でないとアメリカの経済は立ち行かないよと。間違いじゃないんです。だからよく言われる大企業本位。彼らが活動しやすいような状況を作ってあげるというのが共和党の基本的な発想なんです。
中島:
そういうところって今でも続いてるんですか?
青木:
続いてますよ。
中島:
すごい。そうですか。
青木:
もちろん民主党もそういうことをしないわけじゃないんだけど、それプラス、消費の現場にいる国民の皆さんに元気になってもらう。そのために社会保障が必要だったらガンガンやるというので、アメリカの歴史でたぶん初めて政府が主導権を握って経済活動に積極的に介入すると。特に消費の現場を元気にする。そのためには大きな財政出動も必要になるわけですね。というので、大きな政府で経済活動を活性化させた。
中島:
大きな政府ってそういうことなんですよ。実は政府がたくさんお金を握って、そして市場にばらまいていこう。じゃあどうやってばらまくの?といったら、「よし、じゃあでっかいダム作ろう」って言って、ダムを作ったりだとか、公共工事ですよね。
青木:
そのダムを作ることに失業者なんかを吸収していく。
中島:
そこに仕事を創出していく。
青木:
そういう政策のことをフランクリン・ルーズベルトはリベラルという言葉で表現したんです。もともとリベラルって英語ですよね、なになにから解放されるという意味があるんです。
注意していただきたいのはイギリスとかヨーロッパでリベラルといった場合には、たとえば政治権力から経済活動は自由であると、解放されていると、そういう意味合いで使うんですよ。でもアメリカは逆なんです。そこは注意しておくべきです。
中島:
リベラルといったらどちらかというと、日本でも使われ方がちょっと違いますよね。
青木:
自由民主党、Liberal Democratic Partyですからね。
中島:
リベラルといったらちょっと左側みたいな。
青木:
意味合いがありますよね。地域によって意味合いが違うんです。アメリカの場合、リベラルと言ったら政府が責任を持って経済活動をなんとかする。特に国民をなんとかする。そういう発想なんです。
中島:
今回の今の段階では我々はどっちが次の大統領になっているかわからないですけれども、やっぱり民主党はそうやって、国民の生活をということでバイデンさん。
青木:
そうですね、そちらのほうにどちらかというと軸足があるということですね。
中島:
シフトしていると。トランプさんはそうじゃない?
青木:
そうじゃない。経済はあくまで競争だと。勝ち残った者がリッチになれば良いんだという伝統的なアメリカ人の価値観ですね。
中島:
そういうことですよね。おもしろいですね。ただ、実はフランクリン・ルーズベルト大統領はそうやってニューディール政策というのをやるんですけれども、なかなかうまくいかなくて、経済が立ち直ったのは第二次世界大戦。
青木:
そうなんですよね。
中島:
皮肉ですよね。
青木:
ダムを作った、それに失業者を吸収できたかというとそうじゃなかったですね。足りなかったんです。おもしろいのはヒトラーですよ。ヒトラーは政権を握ったのがルーズベルトとほぼ同時期なんですよね。実際はニューディールの真似をするんです。大規模な土木工事なんかをやって、そこに失業者を吸収するんです。一番有名なのはアウトバーンです。
それだけだったらたぶんヒトラーの経済政策も失敗してたんだけども、彼は軍需産業にもお金を出す。これがルーズベルトはできなかった。当時のアメリカはそこそこ軍事力を持ってるんですよね。なのになんでこれ以上軍事力を強める必要があるのか、この大統領を戦争をする気じゃないか、そう思われたら女性票が絶対に入らないです、次の大統領選挙で。
中島:
そのときはもう女性の参政権は。
青木:
あります。アメリカは1920年ですね。
中島:
女性の参政権ができて、20年くらいのもの、10数年ぐらいのものということですね。
青木:
そうですね。これを授業で言うよく「先生、男はどうなんですか?」って。男は賛成しちゃうんですよ。平和に関する偏差値がちょっと低い。どっちかというと。そんな気がしますね。
中島:
これというのは変な話ですけれども、ひとつは生物学的なところかもしれないなとは思います。
青木:
狩猟をやっていたというのがね。
中島:
世界史の話で始めて、まだ近代史しかやってないですけれども、世界史の話って実は古代から始まるんですよね。
青木:
はい。原始時代から。
中島:
原始時代から始まるんですよ。だから先生なんてユバルノハラリさんの『サピエンス全史』を読んだときに「悔しい」と。
青木:
あの40過ぎの若造が。
中島:
青木:
やられたって感じ。
中島:
俺も知ってたのにという。あのかたは人類学者なんですよね。
青木:
そうですね、一応でも分類では歴史学者となってますけどね。かなりグローバルな総合的俯瞰的な歴史をやってらっしゃる。
中島:
ちょっと話は横道に逸れましたけれども、そういうふうなことをやったけれども、なかなかうまくいかなくて、結局不穏な空気になっていたドイツ、ドイツは戦後補償で、皆さん世界史のときはわかるでしょうけれども、1918年に第一次世界大戦が終わって、1919年にベルサイユ条約、ベルサイユで話し合われたことの戦後補償が大変で。
青木:
賠償金がね。
中島:
賠償金が大変で、それでヒトラーが「俺に任しておけ」って経済を活性化させて。
青木:
活性化させたんですよね。ヒトラーは政権を握って5年以内に失業者をゼロにしたんです。アメリカの場合はニューディールだけじゃならなかった。ところが太平洋戦争が始まって、軍需産業が大手を振って活性化できたんですよ。そこに失業者がガーッと吸収されて、太平洋戦争が始まった1941年から45年まで、アメリカはほぼ完全雇用。失業者がゼロなんです。しかもその間にアメリカ人が一生懸命働くじゃないですか。給料をもらうじゃないですか。普通はパーっと使うじゃないですか。でも戦争中なのでみんな使わなかったんです。その使わなかったお金が第二世界大戦が終わったあとにブワーっと使われ始めるわけ。これでアメリカの経済がますます発展する。
40年代の後半から50年代のアメリカってすさまじいですよ、経済発展が。
中島:
50年代といったらひとつはまたアメリカの音楽も花開いて、ロックも出てきて。でも実はそのアメリカというのは、南アメリカの人たちからの搾取とかもあったわけですよね。
青木:
もちろんですね。その話はまたゆっくりね、ゲバラの話なんかも。
中島:
大統領の話でルーズベルトはそれぐらい。ニューディール政策がうまくいったんじゃないけれども経済が、結局は戦争というハプニングでうまくいって、いまだに良い大統領と。
青木:
そういう評価ですね。ただリベラルという立場だったので、いわゆる共和党系の人たちが投票した場合には彼は3番目になります。2番目にならない。
中島:
なるほど、そういうところもあるんですね。せっかく大統領という話になったので、こんなおもしろい大統領いたよという、ありますか?
青木:
世間的な評価は低いんだけども、再評価されて良いなと思う大統領が2人いるんですよ。1人は誰かというとリンドン・ジョンソンという大統領で、彼は世界史の教科書なんかではベトナム戦争をエスカレートさせた、ベトナム戦争の一番責任者みたいな感じなんですが、それはその通りなんですよね。
でも一方では、アメリカ国内でそれこそフランクリン・ルーズベルトがやったような社会保障をより徹底してやろうとした人なんです。彼のスローガンがグレートソサエティ、偉大なる社会。なにを持って偉大な社会と言うかというと、貧困と差別を打ち倒した社会こそすばらしい社会なんだと。あの人はもともと小学校の先生なんですよ。小学校の先生で、いわゆる黒人が多くいる貧困地区というんですかね、そこに自ら志願して赴任するんです。貧しい人たちをどうやって教育水準を上げるかというのでかなり地を這うような努力をした人なんです。そういったところはもうちょっと評価されて良いんじゃないかなと。
中島:
でもやっぱり時代が戦争の時代で、ベトナム戦争という大変な傷を負ったアメリカの戦争ですから、なかなかそういうふうに思っている人は少ないですよね。
青木:
少ないですよね。もう1人、再評価したいと思っている大統領は、リチャード・ニクソン。
中島:
ニクソン大統領ですか。
青木:
ニクソンね、好き嫌いもあると思うんだけど、ランキングだとだいたい下から10番目ぐらいに入るんです。
中島:
そりゃそうでしょ、ウォーターゲートですよ。
青木:
とんでもない事件ですよね。
中島:
とんでもない、ウォーターゲートっていろんなところを盗聴してたりとか、そういう話が明るみに出ちゃって、やめざるをえなくなったという。
青木:
自ら辞任した唯一の大統領ですね。
中島:
そうなんですよ、そういう人、いないんですよ。
青木:
なんですが、彼が外交に残した足跡は本当に大きいものがありますね。
中島:
ニクソン大統領、そうですか。ニクソン大統領を言えなく今回終了ということになります。でもちゃんと続きはやりますので、大人の世界史チャンネル、チャンネル登録よろしくお願いします。しかしやっぱり歴史を知ると未来が見えてくるというところはあるかもしれないですね。
青木:
そうですね。
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