世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんの「青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版です(許可を得ています)。
(前回の記事「中国近現代史5【毛沢東のおかけで中国大混乱】」はこちら)
動画版:「中国近現代史【鄧小平 天安門事件テープ】」
中島:
歴史を紐解けば未来が見える。大人の世界史チャンネル中島浩二です。そして河合塾のカリスマ講師、世界史の青木裕司先生です。よろしくお願いします。
毛沢東が文化大革命をやって、ちゃんと政治的に回復させた鄧小平、劉少奇。これを追い落としてしまって、そのあとどうなるんですか?
青木:
実権を取り戻しますよね。そろそろ毛沢東もボケが始まるんですよ。
中島:
結局年齢なんですね。
青木:
そう、80を過ぎちゃってね、ナンバー2のポジションにいた周恩来も癌になって、だんだん体力が衰えていって、という中で後継者を誰にするかという問題が出てくる。そういう中、1976年にまず周恩来が亡くなって、その後を追うように毛沢東も亡くなるんです。亡くなる1か月前に彼は共産党の幹部を集めて後継者を指名するわけ。指名された男が誰だったかというと華国鋒という人物で、この人が新しい中国のリーダーになるわけです。

ただ、みんなびっくりしたのが、僕も当時から中国ウォッチャーだったんだけど。
中島:
いわゆる1976年とかいうことになると、僕11歳で小学校5年生になる年ですよ。先生は大学2年生。そんなときにそんな話なんですよね。
青木:
華国鋒が出てきたでしょ、びっくりしたのはほとんど無名の人物だった。
中島:
聞いたことのない人を指名しちゃったと。
青木:
そうですね。Newsweekというアメリカの雑誌があるでしょ、そこに華国鋒の写真が載って「The new leader of Red China Ka... Who?」「誰?」って。僕もそう思ったの。「誰?この人」って。いろいろ説があったんですよ、実は毛沢東の私生児ではなかったとかいろいろ陰謀論めいた議論もいろいろあったんだけど、はっきりしているのは文化大革命そのものについてはやや批判的な人間だった。その人をあえて指名したんですね。一方で毛沢東の奥さんがいて、江青という人です。

中島:
この人もまたね、あのメガネをかけたおばちゃんですよね。最後は裁判かなにかで大変なことになる。
青木:
文化大革命の中でも一番急進派と言われた人です。江青として、奥さんとしては自分が指名されると思っていたんです。ところが毛沢東はやや文革には批判的な人を選んだ。
中島:
これは間違えたと思ってるんですかね。
青木:
今から考えるとそうかもしれないですね。華国鋒は権力を握っているんです。当然江青たちはむかつくわけです。彼女たちから反撃される前に秘密警察なんかを握っていた葉剣英という人、ときどきゴルゴ13に出てきます。

中島:
ゴルゴ13はものすごいちゃんと社会的な背景を、さいとうたかを先生は知って、しかもそこのところの写真とかもきれいにあれして。
青木:
一部フィクション。ほとんど事実。
中島:
そうなんです。そういうエピソードをちゃんと漫画にしてるんですよね。
青木:
その華国鋒と葉剣英がつるんで江青たちを逮捕しちゃう。で、国を再生せにゃいかんと。国づくりについては、特に経済政策については誰がプロフェッショナルか、鄧小平がいたと。
中島:
ということで鄧小平が返り咲くんですよね。
青木:
経済政策ってやっぱり本当にプロじゃないとできないですよね。
中島:
経済をわかっていないとダメだと。
青木:
華国鋒自身も俺はそのへんはよくわからんというので鄧小平に復活してもらうわけ。復活した鄧小平はあっという間に実権を握るわけです。華国鋒を追い落としてしまうんです。
中島:
すごい話ですよね。
青木:
1978年からこのあと20年間弱、鄧小平時代が始まるわけです。
中島:
いわゆる社会主義だけれども市場経済。
青木:
そうですね。はっきり言いまして中華人民共和国の歴史、71年ありますね。でも後半の40年間は資本主義です。共産党が一党独裁で支配しているという点は日本・アメリカと違うけども、資本主義経済ですよ。だって生産手段の私有を認めているでしょ、市場にいる我々国民、「あれが欲しい、これが欲しい」それに対応して物を作るわけでしょ、資本主義ですよ。
中島:
いわゆる政治システムは共産党一党独裁だけれども、これがわかっていないと今の中国をちゃんと認識できないですよね。わからないということですよ。だから共産主義なのに、そうじゃなくてもう経済資本主義だからということですよね。
青木:
はい。一党独裁のもとで経済システムはほとんど一緒。ただ、資本主義経済、ゼロから作るので学ばなくちゃいけないというので、鄧小平が改革開放、これを称えるわけですね。資本主義の良いところをどんどん学びますよと、もともとそういう人なんですよ。なおかつ工業のインフラを整備するためにはお金もいる。技術と資本、これをアメリカ、西ヨーロッパ、そして日本、これから導入する。そのために海岸地域に経済特区、言うなれば資本主義経済のモデル地域を作るわけです。
鄧小平自身、1978年、初めての来日を果たすんです。そのときは日中平和友好条約の批准書の交換ために来るんだけども、8日間日本に彼はいてどうしたかというと、日本にリクエストをするんです。「新幹線に乗せてくれ」と。新幹線に乗って200キロで動くじゃないですか。部下たちに「おい、これが近代だ」と。「これだ、自分の望むものは」と。そのあと新日鉄と日産と今のパナソニック、松下の工場に行くわけ。そこで初めて彼は電子レンジを見る。「火を使わなくて調理できますよ」と。パナソニックの人が、松下電器の人が「シュウマイがこんなにおいしそうに焼けますよ」って。そこで鄧小平が食べるというのは予定になかったけども鄧小平は取って食べた。「うまい」と。
それに松下電器、当時のね、今のパナソニックの人たちはびっくりした。外国の要人でしょ、ナンバーワンですよ。
中島:
その人がいわゆる試食で熱々に、冷凍したやつがフカフカになって、それを食べるかと。でも鄧小平という人は食べてどのぐらいおいしいかというのを自分で体験して「これは」ということですよね。
青木:
こういうものを作る、これが近代だ、これが近代工業だと。さっきも言ったように学ぶものはしっかり学んで、実際にこれから80年代、今に比べればやや緩やかだけども経済発展が展開するわけ。
中島:
ということはやっぱり今の中国の経済的な発展の基礎を築いたのは鄧小平。
青木:
鄧小平抜きには今の中国は語れないです。
中島:
ということですよね。
青木:
実際に日本やアメリカとも関係改善をして、アメリカとは1979年に国交を樹立して、日本とは平和条約を結んで、80年代にいろんなものを日本やアメリカ、西ヨーロッパから学ぶわけです。ところがこれが副産物がひとつある。なにかというと、学ぶものは経済だけじゃなくて政治運営システム。いわゆるアメリカや日本がそうであるように議会制民主主義、これも導入したほうが良いんじゃないかという声が知識人の間で高まっていくわけですね。散々言ったけど中国って共産党独裁、長い間毛沢東の個人独裁だったんです。だからその人の判断が間違うととんでもないことになっちゃうんですね。
中島:
なるほどなるほど。1人を国家主席に置いて政治システムをやっていたら、なかなか難しいことになるかもしれないねってみんな思うわけですね。
青木:
その点、議会制民主主義というのは話し合いをするから時間はかかるんです。でもみんなで良い意味で足を引っ張り合うから大失敗になりにくいんです。これは議会制民主主義の一番のメリットだと僕は思うんです。デメリットは時間がかかる。でもそれ以上に国を滅ぼすような大失敗にはなりにくいんです。それも学ぶべきではないかなという声が高まっていく。その声が高まって高まって、1989年に北京の天安門広場に全国から集まった学生、知識人たち、そして一部北京市民も集めて、「共産党の独裁はおかしいんじゃないか」「共産党独裁はおかしいおかしい」がだんだん「共産党独裁打倒」になるわけです。
中島:
これで大変なことになるんですよね。
青木:
それについては鄧小平も許せなかった。一党独裁は堅持したうえの中国の資本主義化。人民解放軍という名前がつく軍隊を動員して数千人かな、一説には数千人、少なく見積もっても数百人の市民たちが虐殺されるという事件になる。

中島:
これがまたテレビであのVTRが、80年代だったので、いろんなところで放送された、人がいるところに戦車が。
青木:
そう、戦車とか装甲車が突っ込んでいくんですよね。踏み潰されるわけですよ。たまたまそのときに僕の教え子のお父さんがたまたま天安門事件の現場におられて、仕事で行ってらっしゃったの。そのデモ隊、それに対する人民解放軍の発砲、これを録音されてきたんです。
中島:
なかなかこういう音を生で聞くということはないですけれども。
青木:
本当の生録ですからね。
中島:
そうですね、じゃあ聞いてみましょうか。
(録音音声 銃声など)

青木:
発砲すると倒れる。それに対して市民、デモが反撃に出る、そんな感じ。
中島:
うわー。これはやっぱり大変なことだったんですね。
青木:
結局一党独裁のたどり着くところってこれなんですよ。独裁って結局「お前は黙ってろ」でしょ、「黙らんと殺すぞ」なんですよ、結局。その点でいうと、日本にはいろいろ問題がありますけど、日本のほうが1億倍良いですよ、どんな独裁国家よりも。
中島:
これで中国はいったん終了ということになりますかね。
青木:
もうちょっとかな。
中島:
わかりました。次回また中国の話をすることにしましょう。大人の世界史チャンネル、登録よろしくお願いします。
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