世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんの「青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版です(許可を得ています)。
(前回の記事「 【アメリカ黒人の歴史③】キング牧師とプレスリーはこちら)
動画版:「【ラテンアメリカ史】アメリカと軍事政権の関係」
中島:
歴史を紐解けば未来が見える。大人の世界史チャンネル中島浩二です。そして河合塾のカリスマ講師、世界史の青木先生です。よろしくお願いします。
青木:
お願いします。
中島:
僕は高校時代に「アメリカン・グラフィティ」という映画を見て、リアルタイムじゃないんですけどね。それで「うわー、アメリカってなんかすげえ楽しい、かっこいい」と思って。でも映画でアメリカってアメリカがいかに楽しくてすばらしいかみたいな宣伝はしていったんですよね。だからリーバイスというジーンズが世界中でもてはやされるようになったのもジェームス・ディーンにリーバイス501を履かせてからだという話もあるぐらい、アメリカって実は映画でものすごく自分たちを宣伝していったという部分があって。僕も高校時代、中学校3年生のときでした。「うわー、なんだこのアメリカン・グラフティという映画は」ジョージ・ルーカスですよ、スターウォーズの。「一夜だけの映画なのになんか良い、切ない、音楽もかっこいい」と。ブラックライブズマターで言いましたけどロックンロールが、それこそドゥーアップとかも混ざっていっぱいかかってて、なんてかっこいいんだ、あの時代がアメリカって一番栄華を極めたという感じですよね。
青木:
世界中が憧れたですよ、あの時代のアメリカにね。
中島:
そうですよね。その世界中が憧れたアメリカを実は支えていたのが、まさに支えていたというラテンアメリカの人たちということを大人になってかな、大学ぐらいなって知るということだったんですけども。だから今回はラテンアメリカでやっていこうかと。
青木:
まずラテンアメリカと言われるエリア、どこからどこまでかというとメキシコから南ですね。メキシコを中心とするあたり中米、あとパナマから南側を南米、あとキューバなんかを中心とするカリブ海域。この3つのエリアをまとめてラテンアメリカ世界と言ってるんですね。
中島:
アメリカから南は全部ラテンアメリカと。
青木:
そうですね。ちなみにアメリカ合衆国から北側はいわゆるアングロアメリカ。イギリスからアングロサクソン人を中心とした人たちがやってきたのでアングロアメリカ。これに対してメキシコから南側の地域にはポルトガルやスペインですね、いわゆるヨーロッパのラテン世界、そこらへんからやってきた人たちが多いのでラテンアメリカと。
中島:
言葉的にもスペイン語を話していたりとか、ポルトガル語を話していたりとかいうことですね。
青木:
16世紀以降に多くの地域がポルトガルあるいはスペイン、一部フランスですね。そういったヨーロッパの国々も支配下に入るわけです。
ところが19世紀のはじめ、ほとんどのラテンアメリカの地域は独立を達成します。原因はスペインとかポルトガルなんかがフランス革命、あるいはナポレオン戦争と同様にしっちゃかめっちゃかになっちゃうんです。ラテンアメリカの人たちが「これはチャンスだ」と独立しちゃうんです。
独立後のラテンアメリカなんですが、産業は基本的に農業。どういう農業かというとクリオーリョと言われる植民地生まれの白人が地主として小作人たちをこき使うと。
国際的には、資本的には工業化を進めていたイギリスのマーケット、アメリカ合衆国もいずれは進出しようと、そういった気配を示すわけですね。そのアメリカの進出、ラテンアメリカの歴史でいうと冒頭中島さんがおっしゃったように、ラテンアメリカとアメリカの関係を抜きには語れないです。
基本的にどういう関係と、先にざっくり結論から言っておきます。特に19世紀の末以降のラテンアメリカ諸国とアメリカ合衆国との関係、特に経済的な関係はこんな感じなんですよ。見てわかるように経済的な関係なんですけどね。アメリカにとってラテンアメリカは工業原材料の供給地。工業原材料を持ってきてアメリカで工業を発展させて商品を作って、それをお前たちは買いなさいと。
中島:
これがキューバの人たちがよく言うんですよ。サトウキビを持っていって、ガムを作ってガムを売りつける。持っていくときにも買い叩くし、売りつけるときにも利益。二重で取られているようなものだと。
青木:
骨の髄までしゃぶられるわけです。当然ラテンアメリカの人々は反発を感じるわけです。その反発はどうするかというと、アメリカが支援する軍事独裁政権、現地の軍人たちを支援して軍事独裁政権を作らせて、暴力的に叩き潰す。その軍事独裁政権が頼りない場合にはアメリカが直接的に軍事介入をすると。
中島:
思うんですけど、本当にたかだか一部の人たちにおいしい蜜を吸わせて、ほとんどの人たちを支配していくということですよね。
青木:
自分たちの手先をラテンアメリカに作って、その人たちを通じて、キューバからは砂糖、チリからは銅、こういったものを奪い取っていく、そういう感じなんです。それを原材料にしたアメリカの企業が大発展をしていくわけですよね。
19世紀の末ぐらいから侵略が開始されていくわけですよね。きっかけになったのがパンアメリカ会議という。アメリカ、すごいのは侵略する前に情報収集するんですよ。ラテンアメリカの国々の代表を集めてきて情報を収集して、19世紀の末から具体的な侵略を始めていくんです。
その経過をつぶさに語る必要性はあまりないと思うんだけども、先ほどの図解で示したように工業原材料を奪い取って、品物を作って、買いなさいと。その基本的な関係が崩れるのが1929年の大恐慌なんです。以前お話したと思うけれどもアメリカの大恐慌、一番大きな原因はなにかというと、アメリカでいろんな企業が商品を作りすぎちゃった。
中島:
ものを作りすぎた。
青木:
はい。マーケットを確保する前に作りすぎちゃって、多くの在庫品を抱えて企業がバタバタ倒れていく。作りすぎちゃっているのでアメリカがラテンアメリカ諸国に対してなんと言ったかというと、「ごめん、もういらねえわ」と。「作りすぎてるんだから、工業原材料をもらってもしょうがないからもう良いわ」と。こうしてたとえばブラジルでコーヒー豆の値段が暴落したり、チリで、チリは銅鉱山が有名なんですけど銅の値段が暴落したりする。多くのラテンアメリカの国々の人たちがこれまで以上にアメリカに対して不満を持つようになる。するとこれをきっかけにしてラテンアメリカのいくつかの国々で「アメリカが買わないんだったらうちらの国で工業を始めていこう」というので、大恐慌をきっかけにラテンアメリカのいくつかの地域で工業化が始まっていくんです。そのひとつがメキシコ。メキシコといえば産油国で有名なんです、石油が採れるんです。アメリカの資本が投下されて石油の開発が進められたんだけども、30年代にメキシコにカルデナスという大統領が登場して、メキシコから出る石油はメキシコ国民のものであると。
アメリカ資本の支配下にあった石油を国有化しちゃうんです。チリでもせっかく銅が出るんだったらこれを原材料にしてうちらで工業を進めていこうと。アルゼンチンもそうですね。アルゼンチンにはペロンという大統領が登場して工業化を進めていくんです。ちなみにこのペロンさんの有名な奥さんがエヴァ・ペロンという人で。
中島:
エビータですか。
青木:
エビータ。ミュージカルにもなったし、映画にもなりましたね。
中島:
マドンナが演じてましたね。
青木:
Don't Cry For me, Don’t Cry for Argentina。あの有名な歌を歌うんです。工業化が一定程度進んでいったりする国も出てくる。そのあとに第二次世界大戦が起こる。45年に第二次世界大戦が終わる。ご存知のように戦後の時代でいうとアメリカのソ連の冷戦の時代。アメリカとしては自分の国に共産主義・社会主義の影響が及んでくるのを怖がる。一方で自分がこれまでコントロールしてきたラテンアメリカの国々に共産主義・社会主義の影響力が及んでくるのを怖がるわけですね。
というので、第二次世界大戦が終わってすぐですけども、リオデジャネイロ条約というのを結んで、ラテンアメリカの国々と軍事同盟を結ぶんです、ほとんど無理やり。さらにOAS、Organization of American States(米州機構)という国際組織を作る。いうなれば国際連合のアメリカ版です。アメリカを中心とする国家間の友好組織を作って。
中島:
自分たちの仲間だよというふうに無理やりしちゃうんですね。
青木:
ですけども、基本的な関係はこれまでと変わらないわけですよ。アメリカにとってラテンアメリカは工業原材料の供給地。そうした状況に反旗を翻す国がラテンアメリカに出てくるんです。ひとつだけ例を挙げるとそのひとつがグアテマラという国です。これは中米の小さな国で、バナナとコーヒーですね。しかし生産されたバナナとコーヒーは基本的にアメリカに持っていかれちゃうんです。ユナイテッドフルーツという大食品会社がコントロールするわけです。
そうした状況にグアテマラにグスマンという大統領が登場して、アメリカの企業、ユナイテッドフルーツという会社が支配している土地を接収する。貧しい農民たちに分配するわけです。いわゆる土地改革を進めるわけ。するとこれに当然ながらユナイテッドフルーツ社は激怒。アメリカ政府に「なんとかしてくれ」と。時の国務長官のダレス、弟のダレスはCIAの長官なんですけども、2人ともユナイテッドフルーツ社の重役なんですよ。
中島:
利権をもらっているから自分の懐の話なんですよね。
青木:
そうです。このダレス兄弟が動いてグアテマラの軍部に資金と武器弾薬が供与されてクーデターを起こす。1954年にクーデターが起こって、土地改革を進めていたグスマン政権が倒されちゃうんです。
ラテンアメリカの多くの国々、当時は軍事独裁政権が多かったんです。これはラテンアメリカだけじゃないんですけど、第三世界の国々っていろんな組織みたいなものがあんまりきちんとできていないんです。そこにアメリカが入っていって、まず軍隊で組織を作る。第三世界のいろんな国々で最初にピシッとした組織ができるというのは軍隊なんです。それをアメリカがコントロールして言いなりにしていく。自分のアメリカ合衆国の意図に反するような動きをした政府に対してはアメリカの手先になった軍部が動いて打倒しちゃう。
中島:
現代版の植民地化ですよね。
青木:
そうですよ、アメリカ自身は手を下さない、基本的にはね。グアテマラの場合はアメリカが画策したクーデターで打倒されちゃう。これに対して成功した例がキューバなんです。キューバの話は次回ということで。
中島:
わかりました。キューバの話は次回です。
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