世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんの「青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版です(許可を得ています)。
(前回の記事「 ロシアによるウクライナ侵攻②【キエフ公国とモンゴル帝国】」はこちら)
動画版:「ウクライナ③ ポーランド・ロシアの侵略」
中島:
歴史を紐解けば未来が見える。大人の世界史チャンネル中島浩二です。そして河合塾のカリスマ講師、世界史の青木先生です。よろしくお願いします。
ロシアがウクライナに侵攻してということで、関係性とかどういう国なのかというのを世界史的に見ていこうと。ウクライナの成り立ちというところをかなりやっぱり、今から1200、300年前というところからですから、前回までモンゴルがウクライナ・ベラルーシ、それから今のロシアあたりを蹴散らして、そのあとにモンゴルの人たちを蹴散らした人たちが出てきたというところから今日はスタートですね。
青木:
前回の最後にも言いましたけども、モスクワを拠点として、ヴォルガ川の支流の流域なんですけども、これを拠点にしてモスクワ大公国という国が発展していくんです。
これがのちのロシア帝国、今のいわゆるロシアの基盤の基盤と言って良いです。歴史としてはキエフなんていう街よりも300年ぐらいあとに発展していた街なんですよね。よく言われるけども、中島さんがおっしゃったけども、キエフは京都、じゃあモスクワというと日本の歴史で言うと江戸ですね。そこを拠点にモスクワ大公国が発展して、1480年にモンゴル人を打ち破ることに成功するんですよ。そのロシア帝国の力がだんだん今のウクライナのほうに延びていくわけですね。
これは16世紀のざっくりした地図で恐縮なんですけども、橙色の部分が今のウクライナの領域ね。その北側のあたり、東部をロシア帝国、そして西部をもともとこのへんを拠点にしているポーランドが支配していますね。
中島:
その頃のキエフを含むウクライナというのはかなりなかなか厳しい状況だったということですね。
青木:
はっきり言ってずっとそんな感じですね。やっぱり豊かだったがためにいろんな勢力が入ってきて、しかも海に面してるでしょ、アジアにも近いじゃないですか。
中島:
交通の要衝でもあるんですよね。豊かだし交通の要衝でもあるから重要なポイントなので、やっぱり誰もが欲しいという国土になるんですね。
青木:
特に豊かな西部のあたりをポーランドが支配しているんですね。ただ1回目も2回目もウクライナのところって非常に土地が豊かだと言ったけども、寒いのは寒いんですよ。寒いのは寒いので、豊かだけども穀物の生育が今ひとつのときもあるわけ。だから人口がなかなか伸びないので、常に労働力が不足するわけ。ポーランドがなんと思ったかというと、労働力を西部ヨーロッパの連中を迎え入れて補っていこうと。西部ヨーロッパで土地が持てない人いませんか?いたらこのへんで頑張ったらなんとか豊かになれますよと。これにドイツ人や、あるいは西ヨーロッパで迫害されていたユダヤ人たちがたくさん入ってくるわけ。
ポーランドには第二次世界大戦中、アウシュヴィッツというとんでもない強制収容所ができて、おびただしい数のユダヤ人が殺されることになるんです。なんでポーランドにユダヤ人の数が多かったかというと、歴史的背景はここに始まるんですね。ポーランドの力がウクライナに伸びていったときにユダヤ人の移民をたくさんを受け入れていくわけですよ。しかもユダヤ人って西部ヨーロッパに住んでいたときというのはよそ者だったので土地を持つことができない。じゃあどうするかというと金融業、商業、そういったものに従事するユダヤ人が多くて、教育水準が高いんですね、読み書きができるじゃないですか。これにポーランド人の貴族たちが目をつけて、ポーランド人が支配した土地の管理を任せるわけ。
ポーランド人の貴族地主に管理を任されたユダヤ人がウクライナの農民たちの上に立つわけ。で、恨みを買うことになるわけ。
中島:
歴史の因果が、日本に住んでいたらわからないぐらい、地続きで民族が違って、ずっと争いの中にいるってすごいことですよね。
青木:
ある意味我々は島国で、外敵が攻めてくるって滅多にないじゃないですか。よく平和ボケとか言うけど、平和に慣れた我々にはなかなか理解しがたいところなんですよ。
中島:
そうですよね、しかも民族といったらある程度同じような民族がずっと暮らしてきたわけですから、これはまたすごいことですね。
青木:
16世紀から17世紀、そして18世紀、似たような状況ですよ。ポーランドが西側を抑え、東側をロシア帝国が抑えていくと。もちろんウクライナの土着の人たちも黙って外国の支配を受け入れたわけじゃなくて、2人の英雄が登場するんですね。世界史の教科書には登場しないんだけども、フリメニツキーという人と、マゼーパという人。
この人たちが17世紀と18世紀に、短い期間だったけども、ウクライナの地元の人たちをうまくまとめあげて、あるときはロシアと戦い、あるときはポーランドと戦い、ちょっかいを出してきたトルコと戦って、一時的に独立を保つこともあったんです。
ちなみにフリメニツキーとマゼーパは今ウクライナのお札の肖像画になっています。17世紀に独立を勝ち取ったフメリニツキーという人がウクライナの5フリヴニャという紙幣があって、それのお札の肖像になってるんです。そして17世紀から18世紀に独立を勝ち取った英雄のマゼーパという人は10フリヴニャ。
中島:
今流通しているお札の肖像なんですか。
青木:
昔からなんべんもお札の肖像は変わってきたけども、この人たちはだいたい不動ですね。ウクライナ国民がみんな知ってる歴史的な英雄ですよ。
中島:
それぐらいの英雄だということですね。
青木:
しかしながら残念ながら18世紀になって、この地域にだんだんロシアの勢力が伸びてくる。結論を言っちゃうと19世紀初頭の段階では、いわゆる今日のウクライナの全地域がロシア帝国の支配下に入ってしまうんですね。
中島:
支配下に入るというのはウクライナとして支配下に入るということですよね。ロシアになるってことじゃないんですよね。
青木:
いや、事実上そうですね。ロシアで食えない人たちが移住をして行ったり。たとえば今でもウクライナの国の中にロシア系住民が多いところってあるじゃないですか。東部の2つの州とか南部の地域。オデッサなんていう街はロシアの移民たちが作った、そういった経緯がある街ですよね。南部のあたりってわりと多いですよね。
中島:
ということは本当にウクライナというひとつの国なんですけど、国の中で本当に親ロシアという人たちもいるという地域ではあるんですね。
青木:
やっぱりロシア語をしゃべる人たちが実際多いので、そういう人たちというのはウクライナに対する忠誠心もあるとは思うけども、一方でロシアに対してものすごい親近感を持っていると。逆に言うとそれが許せないウクライナ人もいるわけですね。そういうウクライナ内部のいろんな対立を利用してナチスドイツなんかがこのあと悪さをしていくわけですよ。
話は20世紀ですわ。これまでも激動だったけども、これからもすごい激動です。
中島:
いわゆる第一次世界大戦が始まるということですよね。
青木:
第一次世界大戦が始まる前にひとつエピソードで言ったらなんなんだけども、ウクライナで農業が発展しますよね。穀物が採れたのは良いんだけど、その穀物をロシア帝国が外貨を獲得するために輸出しちゃうんですね。
中島:
ウクライナの穀物をですか?
青木:
うん、外貨を獲得するために。それをやったらウクライナの人たちが苦しむというのがわかって輸出するわけです。こういう輸出のあり方を飢餓輸出。穀物を輸出したら国内で飢饉が起きる、それをわかっておきながら輸出するんです。だからウクライナって豊かな地域なんだけども、ロシア帝国によってガンガン収奪されるので、食っていけないウクライナの農民が結構出てくるんです。そういった人たちにロシア帝国はなにをするかというと、未開発の地域、ロシア帝国領内、シベリア中心の。あっちに行って開発しろやってやっちゃうわけ。実際に何十万人、たぶん100万人近いウクライナの農民たち、ウクライナで食えないウクライナの農民たちがたとえば極東に移住していったりするわけですよ。
中島:
そういうことですか。この前番組のメッセージに来てたんですけど、実は日本から上がっていったロシアの土地、ロシアの中でも極東にはウクライナの人たちがたくさんいるんです。
青木:
そうですよ。
中島:そのことだったんですか。
青木:
19世紀の末にロシア帝国領内で国内移住していったウクライナ人も多いし、海外に移住したウクライナ人も多いですよね。今は確かアメリカ、100万人いるんですよ。カナダはもっと多いですね。カナダはたぶん移住したウクライナ人が一番多い地域ですね。なぜかというと国内で食えない人たちがいると、これをノルウェーの探検家でフリチョフ・ナンセンという人がいて、かわいそうに思って「あんたたちが住んでいたところと同じぐらい寒いところだけども、めちゃくちゃな収奪をしない国があるからそこに行ったら」というのでカナダに移住を推奨するんです。
海外まで行く力のない人は国内の移住なんです。そういうふうにして極東に移住していったウクライナ農民の子孫にマルキャン=ボリシコという人がいて、マルキャン=ボリシコというウクライナ人のお父さんがウクライナ農民で食えなくなって極東に行くわけ。自分自身はロシア帝国の軍人になるわけ。ところが革命が起きるじゃないですか。ロシア帝国に勤めていた軍人だというので迫害を受ける恐れがある。彼は日本に亡命するわけです。日本に亡命して日本人の奥さんをもらうわけ。生まれた人が誰でしょう。
中島:
誰ですか?
青木:
大鵬さん。
中島:
えええええええ。
青木:
不世出の横綱大鵬幸喜さん。
中島:
そうなんですか。
青木:
僕、小学生時代、ちょうど大鵬さんの全盛期で、この大鵬さんのお父さんは実はロシア人なんだと聞いてたわけ。調べてみたら実はウクライナ人だったんですね。
中島:
お父さんも軍人だったというぐらいだからかなり腕っぷしの強いところのお父さんということだったんですね。
青木:
とにかく僕が見ていたときって白黒テレビだったけど、肌の色が、今から思うとそれもあったのかなと思ったんですよね。
中島:
白黒だけれども他の力士以上に。
青木:
白く見えて。端正な顔立ちなんです。やっぱりそういうことだったんだとちょっと思い起こしてみたんですけどね。で、どうしますか?しゃべり始めたらやっぱり。
中島:
大丈夫です。次回にしましょう。
青木:
激動の20世紀。
中島:
激動の20世紀、次回です。
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