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執筆者の写真順大 古川

ハマス・イスラエル戦争(5)イスラエルとアラブ諸国の関係【青木裕司と中島浩二の世界史ch:275】



世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんの青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版です(許可を得ています)。


中島:

歴史を紐解けば未来が見える。大人の世界史チャンネル中島浩二です。そして河合塾のカリスマ講師、世界史の青木先生です。よろしくお願いします。

イスラエル・パレスチナ。今日は国際社会という、それぞれの国とのつながりというのがありますからね。


青木:

ハマスがなぜ2023年10月という段階でイスラエルを攻撃したか。一番大きな原因はガザ住民のハマスに対する不満が高まっていると。

このあたりで自分たちの存在意義を見せにゃいかん。もうひとつはイスラエルに極右政権が誕生して、もう完全に我々を敵視、我々とハマスとは共存できないという連中が閣僚に入ってしまうと。そういった中でだんだんハマスが追い詰められていく。そして国際的にはやはり去年起こりましたロシアのウクライナ侵攻。これがずっとトップニュースじゃないですか。そういう中でパレスチナ問題というのがだんだん忘れ去られていくんじゃないか。

中島:

影が薄くなっていくということですね。


青木:

そしてもうひとつは2020年代から始まったイスラエルとアラブ諸国との関係改善


中島:

サウジアラビアは盟主というふうに昔から言われていますけれども、イスラエルとサウジがだんだん仲良くしていかなきゃいけないよねという空気になってきて。

青木:

そうですね。国際関係だから図解にしたほうが良いなと思って図解にしたんですが、また複雑でね。


中島:

アメリカとイスラエルという強いところがあるんですが、通常この産油国のいろんなところがまとまってるはずなのに、ここでイスラエルとサウジというところで。

青木:

基本的にはパレスチナ問題ってパレスチナ人とイスラエルの対立。そのパレスチナ人の背後には同じアラビア語をしゃべるイスラム教徒の国々、4回の中東戦争、全部エジプトなんかが戦って、エジプトなんかはものすごい犠牲を出してるんですよね。隣国のヨルダン、シリア、そしてちょっと離れてるけどサウジアラビア。おっしゃったようにサウジアラビアと言いますとイスラム世界の盟主。特に領内にメッカとメディナという二大聖地を持ってるんですね。これがイスラエルの側につくわけにはいかんかったわけですよ、イスラム教徒が苦しんでいる、見殺しにはできないということだったんですけども、このアラブの国々の中ではまず最初にエジプトが1979年にイスラエルとの平和条約を結んで国交を正常化すると。理由ははっきりしてまして、もうエジプトは疲れちゃったんです。4回の中東戦争、さっき言ったように一番大きな犠牲を出しているのは実はエジプトなんです。

1993年のパレスチナ暫定自治協定の翌年、1994年に今度はヨルダンがイスラエルと国交を正常化すると。これも実はパレスチナ人にとっては大きなショックで、ヨルダンって王国なんですよね。正式にはヨルダン=ハシミテ王国といって、ハシミテってどういう意味かというと「ハーシム家のヨルダン」という意味なんですね。ハーシム家というのはどういう血筋かというとイスラム教の預言者、聖なる預言者ムハンマドの家系なんです。

だからある意味イスラム世界で一番由緒正しい血筋というんですか、ヨルダン。それがパレスチナ人の敵であるイスラエルの側に回ってしまったと。

中島:

回ったというか、一応和平を。


青木:

そうですね。


中島:

ただ考えてみたらイスラエルと国境を隣にしてて、ずっと喧嘩してる状態ってやっぱり人間無理ですよね。


青木:

たまらんですよね。実際に軍事衝突しないまでも、武器を持った兵士たちが国境線で睨み合うわけでしょ。その緊張感とそれにかかるいろんなコスト、それから解放されたいという気持ちもあっただろうと思うんですね。

そして2020年、今から3年前なんですが、湾岸諸国のUAEとバーレーン、これがイスラエルと国交を正常化したわけですね。実はヨルダンもバーレーンもUAEも、そしてイスラエルとの関係改善を今試みているサウジアラビアも、実はイスラエルよりもっと嫌な敵がいるんです。それがなにかというと、同じイスラムの国でありますけどもイランという国なんですね。

イランと言いますと1979年に革命が起こって、それまでの君主が打倒されて一応共和制国家と言われるようになったと。王様が打倒されて共和制国家が生まれたというのがこういう国々に恐怖を与える。なぜかと言うと王様がいるからなんですよね。

中島:

全然政治体制が違って、宗教的には同じ流れの宗教。


青木:

同じイスラム教であるけども宗派が違うんですよね。少数派のシーア派と言われる人たち。そのイランの影響力というのが及んでくるのがものすごく怖いんです。


中島:

自分たちもああいうふうに、自分たちの一緒に住んでる人たちが思って俺たちを倒すんじゃないかということですよね。

青木:

そう。その恐怖心がアラブの君主制の国家を結束させて反イランで一致させるんですね。イランが嫌だという点はイスラエルも一緒だと。よく言いますよね、敵の敵は味方ということがあるけども、そういったところでUAEとバーレーンが2020年に国交正常化。そのあとを追うようにサウジアラビアもイスラエルに接近をすると。一番大きな動機はイランに対抗する。もうひとつはイスラエルが持っている進んだ軍事技術。それを導入したいと。サウジアラビアの軍事予算というのは世界で今4番目か5番目ですね。

それは実を言うと、ひとつはイスラエルに対抗するための軍事予算でもあったんだけども、現在ではどちらかと言うとそれがイランのほうに向いてるんですね。イランも核兵器の開発みたいなものがあるじゃないですか。


中島:

ずっと合意を、急にトランプさんのときに抜けちゃったという、イラン核合意を抜けちゃったので、じゃあ開発するよといって、もうかなり進んでるという話がありますね。


青木:

下手をすれば核を持つかもしれないというイランにも対抗するためには、イスラエルと友好有関係というのは得策であろうと。ちなみに言うとイスラエルは核保有国です。NPT、核拡散防止条約にも入ってないし、1968年に結ばれた核拡散防止条約、加盟すると「核兵器を作ってないよね」という査察を受けなくちゃいけないんですよね。それがイスラエルは嫌なのでNPTには調印はしていないと。そのイスラエルとサウジアラビアが友好関係、これを緊密化させていく。国交正常化はもう時間の問題かなというふうに言われていたんですね。そういう状況を踏まえてイスラエルの総理大臣、首相であるネタニヤフさんが国連総会でついこの間ですよ、「我々イスラエルと中東諸国の間、これは新しい歴史の時代を迎えた」と。これは具体的には言わなかったけども、サウジアラビアとも、イスラム教国の盟主であるサウジアラビアとも友好関係を結ぶよと、これまでのイスラエルとは国際関係も根本的に変わるよと。これにハマスが。

中島:

これが大きかったということですよね。


青木:

実際に攻撃が始まるじゃないですか。それに対してイスラエルが反撃をするじゃないですか。ガザ地区に対する空爆なんかを展開する。これで現在に至るまで2000人以上、半分はハマスの戦闘員と言われていますけども、それでも1000人以上の市民が巻き添えをくって殺されていると。そういう状況にイスラエルと国交を改善した国々が、さっき言ったヨルダンにしてもエジプトにしても、サウジ、バーレーン、UAEですね。こういった国々がどういう態度を取っているかというと、イスラエルに対して「あなたを支持します」と言った国はひとつもないんですね。言えないんですよ。

中島:

それはいくら王国とはいえ、なかなか。


青木:

これはやっぱり言えないですよね。ある意味苦しんでいるイスラム教徒、ハマスをどう思っているかというのは別にして、パレスチナにいるイスラム教徒の人たちをやっぱり見殺しにできないということで、「イスラエルさんガンガンやって良いですよ」というのは絶対に言えないですね。

逆に言うとネタニヤフさんとしても、国交正常化したとはいえ、この問題に関してはやっぱり支持はしてくれないんだということで、ちょっとがっかりしているという話があるんです。

これあんまり早計には言えないんだけども、ある意味ハマスが打ち込んだ攻撃というのは、イスラエルと関係改善をしようとしているアラブの国々に楔を打ち込むことには成功はしているという状況なんですよね。

であればこそですよ、今後イスラエルがどう出るか。このシリーズの最初に10月16日の朝日新聞の紙面を見せましたけども、攻撃準備が着々と進んでいると。もちろん実際に攻撃した場合には人質の、今は155人と言われていますけど、イスラエル市民を中心とする155人の市民たちがどうなるのか。たぶんハマスはそれを人間の盾として使うし、攻撃が始まれば見せしめの処刑を始めていくんじゃないか。それがイスラエルが攻撃をすることの抑止になるかと。これについて中島さん、どう思われます?


中島:

僕は毎日会社に行ってそのニュースが一番気になって、どうなっているんだろう。今の段階でまだイスラエルが地上侵攻、準備を着々と進めているという状況ではあるんですが、どこかがなにか手を差し伸べてそういうことにならないようにしてほしいし、誰かいないのかという。

本当に国連の安全保障理事会も、今国連ってどういうことになっちゃってるの?って、機能してないですよね。


青木:

それはロシアのウクライナ侵攻で明らかになったんですよね。ただここで動けるのは国際連合しかないんですよね。たとえば今ガザ地区が非常に厳しい状況になっていると。ガザ地区は確かにイスラエル軍、包囲しているんだけども、1か所だけ開いているところがあって、それがエジプトとの国境線なんですね。ただエジプト政府は、ここからガザの人たちが難民としてやってくることを今のところ拒否してるんです。

なぜかというと、ガザ地区にはハマスがいるでしょ。ハマスというのはもともとムスリム同胞団。ムスリム同胞団ってもともとエジプトにできた組織で、実はエジプト政府はずっとこれを弾圧し続けてきたんですよ。

もともとエジプトにできたムスリム同胞団って、コーランに基づいた国を作りたいという人たちの集まりだったんですね。アッラーの教えのもとに国を作りたい。これに対してエジプトというのはどちらかというと政治は政治、宗教は宗教と。政教分離とまでははっきり言っていないけども、近代化は近代化で別の話だと。イスラム教に則った、コーランに則った国作り、そんなんじゃ近代化できないよといって弾圧をしていたんです。そのムスリム同胞団の流れを汲むハマスがこの国境戦から入ってきて、これがエジプト国内の治安の不安定化を招くんじゃないかと、それを怖れてるんですよね。

だからこそ、今逃げ道がここしかないでしょ、だからこそここで国際連合の出番じゃないのかなと思うんです。エジプト政府に「我々国際連合が責任を持つからとりあえず面倒を見てやってくれ」みたいなことで、極限状態の人道危機が今進行しているんですけども、それを止めるしかないんじゃないかなと。

もうひとつは、もしも本格的な攻撃をイスラエルが始めた場合、フェンスがありますけども、ガザ地区から難民がブワーっと。


中島:

結局200万人があそこにいるわけですから、それをどうやって、20世紀って難民の世紀とも言われてるんです。ずっといろんなところで争いが起きるから、そこを逃れる人が、いまだもっていろんなところに難民の人たちがいるわけでしょ。ここでまた200万人とまではいかなくても、150万人の難民とかが出たらこれ大変な話ですね。

青木:

特に隣国のアラブ国家は大変なんですよね。そのへんはまわりの国々もわかってるんですよ。その混乱が起きると、イスラエルにもブーメランのように跳ね返ってくるんですね。国内の治安の問題って絶対に起きてくるんですよ。だから10月16日のちょうど朝だったんですけども、イギリスのロイターが伝えている情報なんですけども、ネタニヤフがバイデンさんを呼んで、アメリカから来てくれと。アメリカ大統領の顔でなんとか折り合いをつけると。たぶん今の流れで言うとアメリカとエジプトが仲介者になってハマスとイスラエルの間に立つという動きがあるみたいなんですよね。だとするとこれは急いでいただきたいなと。


中島:

もう本当に。このVTRがアップされたときに「10月16日ぐらいはこんな心配してたけれども、一応なんとか形になって血も流れるのが少なかったね」というふうに思いながらこのVTRを皆さんが見ているのか、「もっと大変なことになった」というふうに見ているのか、僕は前者であってほしいなというふうに思いますね。

青木:

そうですよね。次回の配信のときには、たぶん2週間か3週間後になると思うんだけども、どうなったのかを踏まえてお話をしたいなというふうに思うんですね。

とにかくご無事でとしか言いようがないですよね、本当に。


中島:

とにかく事態を見守って、少しでも被害が少ないことを祈るばかりです。


青木:

そうですね。








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