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ウクライナ⑦ 親欧米か、親ロシアか?【青木裕司と中島浩二の世界史ch:0148】



世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんの青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版です(許可を得ています)。



中島:

歴史を紐解けば未来が見える。大人の世界史チャンネル中島浩二です。そして河合塾のカリスマ講師、世界史の青木先生です。よろしくお願いします。

 

青木:

お願いします。

 

中島:

ロシアがウクライナに侵攻してというところで話を始めたんですけれども、さてそのウクライナ、2000年代に入って今のウクライナという、そんな感じですかね。なんというか、ロシアにつくのか、それでもNATOに入るのかという、EUに入ってNATOに入ってという、そういうところでのずっと国を二分してということですかね。

 

青木:

基本的にはその構造ですね。ロシアと仲良くするか、EUをはじめとする西ヨーロッパと仲良くやっていくのか。

そういう中で2004年にオレンジ革命という政治的な変動が起きるんです。結論から言いますと、ロシアと仲の良かったヤヌコーヴィチさんという大統領が一応大統領選挙で選ばれるんです。

ところがどうも猛烈な不正選挙が行われたらしいということで、民衆の批判を食って、再選挙の結果、新欧米派のユシチェンコさんという人が大統領になるわけです。ただ大統領選挙は大変だったんですよね。

親欧米派でしょ。ということはロシアのプーチンさんから見れば敵なんです。そういう背景もあってかわかりませんけども、彼、選挙戦の真っ最中に毒殺されそうになるんです。


中島:

これがなんていうか、しかもね。プーチンさんって本当、これ証拠はないですけど、いろんな人たちが大変な毒を盛られてるじゃないですか。

 

青木:

おっしゃったように真相はわからないんだけども、真相がわからないときの原則はなにか、それで誰が得をするかなんですよ。

 

中島:

それはそれしかないですからね。

 

青木:

その周辺にやったやつがいるというね。結局かなり命の危険もあったんだけども、このユシチェンコさんという人が親欧米派としてウクライナの舵取りをすることになったわけです。

この人、1990年代には銀行の理事長、日本でいえば日銀の総裁です。これなんかをやっていて、国連の機関にIMFってあるじゃないですか。あれともツーカーの関係だったらしい。IMFなんかを通じて資金援助とか。

 

中島:

ということは結局ウクライナという国がどうしても経済的にうまくいかないから、ロシアから援助を受けてしまうとロシアの言いなりにならなきゃいけないけれども、この人だったらわりとIMF国際通貨基金から支援を受けられる。

 

青木:

わりと良い関係だったらしいですよ。たぶん国民もそういったところに期待を寄せたんじゃないかなと思うんです。国民に向かっては経済の再建と、欧米に接近しますと。それから民主化。これまでのウクライナの政治も旧ソ連邦時代と同じで強権的だったんですね。なかなか自由にものが言えないと。そういったものも自分は欧米並みに言論の自由なんかを認めていきますということで大統領選挙に勝ったわけです。しかもこのときにユシチェンコさんをアメリカや西ヨーロッパの国々も支援するわけ。

 

中島:

ここがまたね。西のほうは西のほうで自分たちと仲良くしてくれる人たちをやっぱり支援するんですよね。

 

青木:

たどっていくとプーチンのアメリカ嫌だなと。あるいは西ヨーロッパ、EU嫌だなという気持ちの根底はこのへんにどうも。根底のひとつがこのへんにあるんじゃないかなと。

要するにアメリカも西ヨーロッパの連中も自分に都合の良い連中、そして俺にとっては好ましくない連中を平気で応援して、そいつを政権につけやがったと。オレンジ革命をきっかけにしてプーチンの反欧米の意識というのが強くなっていったと、そんな感じがしますよね。

 

中島:

プーチンが自分に近い人を立てたいみたいに、欧米も自分に近い人が立ってくれたらというところがやっぱりあるんですよね。

 

青木:

あると思います。民主主義という概念を持つ地域が広がっていったほうが良い、それは僕も思うしね。ただ、プーチンはそれで「なに?」と思うわけですよね。

 

中島:

とういうふうに思っちゃうんですね。

 

青木:

そのユシチェンコさん、国民の期待を背負っていたんだけども、残念ながら経済が今ひとつうまくいかない。もうひとつは、彼、汚職の一掃を掲げていたんですけども、それももうひとつうまくいかない。

 

中島:

汚職がもうね。なんでしょうね、旧共産圏というか、汚職ってすごいみたいですね。

 

青木:

まず富を得る人間が非常に限られているということ。国民があんまり豊かではないと。豊かではないからもらう給料だけではやっていけんわけですよ。だから自分たちの生活を守るためにズルをやっちゃうんですね。ズルをやるということが、僕らは汚職と簡単に言っているけども、それが生活をする手段なんですね。

おもしろかったのはね、おもしろいって言っちゃいかんけども、ウクライナの大使をやられていた角茂樹さんという人がいて、2014年から4年間かな、ウクライナの大使をやられるんですよ。

その角さんが日本記者クラブの講演会でおっしゃっていたんだけども、実は日本はウクライナに対して経済援助は一番やっていると。そうらしいですよ。軍事援助は日本はできませんけども、トータルで3000億円ぐらい経済援助をやっていて、これはたぶん外国の援助としては一番らしいですね、ウクライナに対しては。ウクライナの人たちって親日の人が多いんだって。

その経済援助の一環で警察車両を日本から差し上げますと。300台か400台かで。ただそのときにウクライナ大使だった角茂樹さんがウクライナ政府になにを約束させたかというと、警官の汚職を一掃してくれと。

要するに日本産の警察車両に乗った警官が悪さをすると、それは日本のイメージもダウンさせることになる。警察官の汚職を一掃してくれと。そのためにはなにをするか、給料を上げるしかありませんよと。

実際、角さん自身は被害に遭ってないけども、いろいろ話を聞いたらしいです。普通に車を運転していると止められて、「お前スピード違反やろ」って。「いやいやいや」「見逃してやるから」

 

中島:

これは結構経済的にあのうまくいっていない国に旅行したら、警察から車を運転していて止められて、なにがしかを払ったらもう見逃してやるよというのは本当にいろんなところでありますよね。

 

青木:

結局さっきも言ったけど貧しいからなんです。自分の生活防衛のために、許されないけどもやむをえないという感じで横行してるんですね。結局そういった汚職の一掃も十分ではなかったと、ユシチェンコの時代にはね。

さらにロシアとの関係は当然悪くなるじゃないですか、親欧米派だから。するとロシアから経済的な制裁を受けるわけですよ。これで経済混乱に陥って、かなりウクライナ経済はやばい状況になるんです。国民はどうしたかというと、安定を求めて、ここはやっぱり親ロシア派かなというのでヤヌコーヴィチさんが復活するわけです。

2010年の大統領選挙で彼が復帰をするわけです。そのヤヌコーヴィッチさん、2010年に大統領になったわけなんですが、2014年にまたしても彼はウクライナの歴史でマイダン革命と言いますけども。

 

中島:

マイダン革命も結局ロシアにする?それともあっちの西側諸国にする?ということで革命が起こるんですよね。

 

青木:

ちょっとこの人、少し気の毒だなと思ったのは。

 

中島:

追われますよね、国を。

 

青木:

やっぱりロシア一辺倒だとなかなか国を、特に経済の立て直しはできないんじゃないかというので、彼はロシアとの経済的関係も重視するけれども、一方でEUとの関係も国民も望んでるので、やっぱり話し合えるところは話し合いたいなというので、EUとの自由貿易協定なんかの話し合いは進めていくんですね。

 

中島:

でも小さい国はそうやって当然ですよ。

 

青木:

しょうがないですよ。プーチンが「なにやってくんだ」と。「EUと自由貿易協定を結ぶ?俺との関係はどうなるんだ」と圧力をかけて、結局自由貿易協定、かなり話し合いは進んでいたのに、ヤヌコーヴィチさんは調印できなくなっちゃうんですよ。

ついでに言うと、調印するときにEU側はヤヌコーヴィッチさんにひとつ条件を言ってきた。なにかというと「おたくの国、民主主義ですよね。あなたの政敵のティモシェンコという女性が獄中にいますよね。あの人を釈放しなさい」って。



中島:

そういうことですよね。

 

青木:

ちなみにティモシェンコさんはこの人ですね。

 

中島:

美しいですね。

 

青木:

隣の奥さんによく似てるんです。

 

中島:

なんですかそれ。

 

青木:

隣の奥さんきれいなんですよ。

このティモシェンコという女性が実はヤヌコヴィッチさんの政敵で、殺人罪かなにかに問われて獄中にいたんですよね。これは結構ヨーロッパで人権問題としてクローズアップされて。

 

中島:

本当にそんなことをやってるのかというところですよね。

 

青木:

深層はわからないんですけども、人権問題としてEUも黙って見過ごせない。EUって加盟の条件のひとつが死刑廃止なんですよね。だからトルコは入れないんですよ。

 

中島:

日本も入れないですね。

 

青木:

日本は入れないですね、EUには。

話を戻しますけども、ロシアとの良い関係を続けながら、EUとの関係もできればと思っていたヤヌコーヴィッチさん、結局ロシアの圧力でEUとの経済的な協力関係というのが調印できなかった。これからはロシア一辺倒になるということに国民が不安を感じて「許さん」といって、ウクライナの首都キエフの街の真ん中にある広場、マイダンというんですけどね、そこに多くの人たちが集まってきて、「ヤヌコーヴィッチ政権打倒、ロシアは立ち去れ」と。結局この革命が成功するわけですね。

 

中島:

マイダン革命の直後にウクライナに行った人からメッセージをもらいました、写真つきで。最初はわりと穏便にいっていたんですけどね、最終的にはちょっと衝突があって、かなり大変な革命になったと。

 

青木:

1日2日じゃないですからね。2013年の年末ぐらいから2月ぐらいまで3か月ぐらい続いていきますからね。すごい革命、本当に革命だったなという感じです。

 

中島:

そこで革命が起こるでしょ、そこからですよね。

 

青木:

するとバランスをとるように今度は親欧米派のポロシェンコさんという人が政権につくわけ。これに激怒したのがプーチンだったわけですね。

要するに自分にとって都合の良いヤヌコービッチという男が二度までも革命によって打倒され、もちろんこれは国民がやったんですよ。なんだけども、プーチンの目には国民以上に、背後にいるアメリカと西ヨーロッパ。これが気に食わないと。プーチンがその年なにをやったかというとクリミア半島に侵攻するわけです。

そしてクリミア半島は事実上ロシアの支配下に入り、なおかつウクライナの東部2州、ルガンスクとドネツクでいわゆる新ロシア派系の人たちが武器を持って立ち上がって、ウクライナ中央政府との間に現在まで続く内戦を展開することになるわけですね。

 

中島:

かなりやっぱり大変な歴史ですね。

 

青木:

ずっと大変ですよ、本当に。

 

中島:

こんなウクライナの国の歴史の教科書ってどうなってるんだろうって。

 

青木:

ほとんど書いてないです。僕も教科書を調べてみたけど、ほとんど書いていないですね。ソ連時代に飢饉が起きたというのも一部の教科書が書いているぐらいで、ウクライナ独自の歴史というのはほとんどなにも書いていないです。

 

中島:

僕たちが日本史を習うみたいに、ウクライナの子供たちは自分の国史を習うわけでしょ。

 

青木:

ウクライナの連中はもちろん知ってると思うんですけどね。それが世界基準でみんな知っているかというとそうじゃないですよね。

 

中島:

そういうことですね。とにかく今回、ロシアがウクライナを侵攻したということで、ウクライナを中心にロシアとの関係というのを見てきました。かなり大変でしたけれども、こうやって歴史を紐解いていくと、また流れているニュースが違うように感じると思います。ありがとうございます。








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