世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんの「青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版です(許可を得ています)。
(前回の記事「ウクライナ⑧ なぜプーチンは侵攻した?」はこちら)
動画版:「ウクライナ情勢⑨ アメリカの対応」
中島:
歴史を紐解けば未来が見える。大人の世界史チャンネル中島浩二です。そして河合塾のカリスマ講師、世界史の青木先生です。よろしくお願いします。
青木:
お願いします。
中島:
ロシアがウクライナに侵攻し、今日が4月20日ということで、始まったのが2月22日とか。
青木:
2月24日ぐらいですね。
中島:
ということはもう2か月近く経っていて。始まったときから、いつこの戦争というか軍事侵攻が終わるのかみたいなことで、一番最初はすぐに首都のキーウが2、3日で陥落するだろうというふうに言われてたんだけれども、まったくそうはならず。もちろんウクライナの人にとってはそこを取られてしまってはというところもあっただろうし、こっち側の見方で、5月9日がロシアの戦勝記念日というところが。
青木:
対ナチスドイツのね。
中島:
今回、ウクライナの虐げられているロシアの人たちを救う、およびネオナチの脅威をというところで軍事侵攻、それが大義名分なんですけれども。まあネオナチなんていうのは本当にバカげた話で、そんなことはほぼありえなくて。
青木:
ただ、100%嘘かというとそうでもないところがちょっと問題なんですよね。
中島:
ただ、その脅威というのはそんなに、軍事侵攻を起こさなきゃいけないぐらいの脅威かというとそうではない?
青木:
というふうに言われてますね。
中島:
ですね。5月9日までになんらかの結果を出して、プーチンは停戦に持ち込みたいんじゃないかというふうに西側は思ってますけど。
青木:
そうなんですよね。戦争が起きると「こうなってほしい」という期待値を込めてみんなが議論しちゃいがちなんですよね。たぶんそれってプーチンもそうなんですよ。
冒頭、中島さんがおっしゃったように、もう2日3日すればキーウも陥落するだろうと。今から考えたら誰がそんなことを言い出したんだろうと、誰も言ってないですよね。ただ、ひょっとするとプーチンの側近、あるいはプーチン自身がそういうふうに思っていて、それが意に反して長引いてしまうということだったのかもしれないですよね。
中島:
このチャンネルを始めて、いろんな戦争の話をしてきましたけど、一番そこで共通項は、みんながすぐ終わる、そして勝てると思って始めてるというところですよね。
青木:
実際に軍隊を動かすだけでも、たとえばベラルーシとかロシア本土から軍隊を動かすだけでも、キーウに行くのに2日3日で終わるはずないんですよね。ただ、プーチンがもしもそれを本気に考えていたとすれば、それはクリミア半島侵攻のときと一緒ですよ。クリミア半島の侵攻ってほとんど軍事的衝突もなく、亡くなった人も軍人では確かいなかったんですよね。
たぶん戦車でバーっと侵攻すれば、ウクライナの国民、ナチスによって苦しめられているウクライナの国民が「解放軍のロシアが来てくれた」と、あっという間にキーウに入ることができるだろう。ナチスを擁護している、あるいはナチスそのものかもしれないゼレンスキー政権は倒されるだろうと、ぐらいのことを考えていなければ、2日3日でキーウが落ちるなんて考えられないんですよね。
中島:
でもクリミアのときにはなんであんなに簡単にいったのかという。
青木:
2つ理由があって、1つはクリミア半島の歴史を見てわかるように、半分以上がロシア系住民なんです。
中島:
もともとはですね。
青木:
いわゆるウクライナ人と言われる人たちは4分の1ぐらい。もともとソ連の時代に、ソ連のロシア領だったところをフルシチョフが「持っていけ」と。それでウクライナにおけるロシア系住民の数を増やす。ウクライナがいわゆる共産党支配体制から外れていくのを邪魔すると。そういった意味を込めてクリミア半島、くっつけたところなので。なおかつ8年前のウクライナ軍ってまったくダメだったみたいですね。軍隊の体をなしていなかったと、はっきり言って。
その2つの条件が重なって、プーチンとすれば電撃的にあの地域を取ることができた。今度もそういうふうに行くんじゃないかなと思った節はあるんですよ。しかしプーチンの予想に反して、ロシア軍は苦戦を続けていると。
中島:
ひとつは、アメリカはバイデンさんが早くからアメリカは兵を出さないと。これに関してはいろんな人がいろんなことを言ってるんですよね。あれでもしかしたらプーチンは決断したんじゃないかという人もいるんですけれども、でもその他の専門家によると、実は兵を出していないだけでそれ以外のことは全面的に支援しいてるから、今回かなりいろんなところが支援しているというところでウクライナが持ちこたえているという部分がありますよね。
青木:
そうですね。バイデンさんの前のトランプさんの時代と決定的に違うのは、トランプさんってもアメリカファーストなので、「ヨーロッパのことなんか知らねえよ。NATOの安全保障知らねえよ」って感じだったんですよ。
NATOの諸国とアメリカの関係がものすごく悪かったんですね。ところがバイデンさんはもちろんロシアに対抗するためにNATO諸国との連携を非常に緊密化させて、一体化させているんですね。そのへんは評価する専門家は多いんですよね。中島さんがおっしゃったように、軍隊兵員、アメリカ兵こそ出さないけどもインテリジェンスの面とか、実際にロシアの高い地位の将官たちがいろんな攻撃で殺されてるでしょ。あれはたぶんアメリカがもたらした情報なんじゃないかなと。
中島:
我々が普通に一般の人が戦争という、今回は軍事侵攻ですけど、戦争と考えて、いろんな報道で見る映像以外のところで現代の戦争っていろいろ情報のやりとりとかでかなり形勢が変わったりするんですよね。
青木:
前線における兵士たちの戦いという、それだけではないんですよね。
中島:
それ以外の部分がかなりのウエイトを占めていて。
青木:
よく使われる言葉でハイブリッド戦争と。いろんな要素が絡んだ戦争なんだと。アメリカは兵員を派遣する以外は全部やる。
中島:
全面的に支援してますね。
青木:
それからよく言われるんだけど、ウクライナという小国に対してロシアが攻め入ったと。確かにそれはそうなんだけど、ただじゃあウクライナ軍がめちゃくちゃ弱いかというとそんなことはないんです。
まずロシア軍自身、総兵力90万と言われるんですけども、ロシア全体を守っている兵員が90万人で。
中島:
だから言っても北方領土のこっち側にいる人たちも含めてなんですよね。
青木:
そのへんにいる余剰の人員を持ってきてなんとか21万人準備したんですよね。じゃあそれを迎え撃つウクライナ軍はというと、ほぼ20万人なので、兵力的には拮抗してるんですよね。そして決定的なのは、侵攻するロシア軍の連中、大義がないわけですよ。これは大きいですね。
中島:
人間はそういうところで自分たちが戦いに行くというところに大義名分とか目的がなければってことなんですね。
青木:
そうです。この戦いのために死ぬことができるかどうか、命をかけることができるかどうか。命賭けて戦うぞというやつと、死ぬのは嫌だよねというのは、戦った場合に勝敗が明らかになってくるんですよね。
中島:
本当になんというか、命のやりとりをしている中でこういう話は、なかなか本当に心が苦しいですけれども、ウクライナの人たちはこれで侵攻されたら国が蹂躙されるという。だから自ら命をかけて戦うんだというところになってるんですよね。
青木:
これまでこのチャンネルでもお話したように、何回も何回も蹂躙されてきた歴史があるわけですよ。もうたくさんだということなんですね。プーチンの予想に反して、期待に反して、善戦を続けているということですね。
ちなみにその中でひとつ、ジャベリンという。これすごいみたいですね。
中島:
そのまま歩いて持っていきながら戦車とか飛行機とかを墜落させて。
青木:
基本は戦車なんですけどね。重さが20キロぐらいなので、1人で持ち運びができると。しかもこれまでの対戦車ミサイルって、発射するじゃないですか。ミサイルを誘導するために狙いを定め続けないとダメなんだと。そうすると打った場所がわかるので反撃されて、攻撃側の兵士が亡くなってしまうってよくあったんです。ところがこのジャベリンというミサイルは、撃つじゃないですか、そこから逃げられるらしいんですよ。あとは放たれたミサイルが自分で狙いを見つけて自分で爆破してくれると。
中島:
狙いを定めて撃つというのと、放ったらそこに勝手に行ってくれるという。本当に人間ってテクノロジーをこういう殺戮、結局この大人の世界史チャンネルでも今までやってきて、実は技術の革新って戦争でかなり発達する部分ってあるんですよね。
青木:
そうですよね、これは第一次世界大戦も第二次世界大戦もそうだけども、経済効率は二の次になっちゃうので、とにかく目の前の敵をやっつけるためにはどれだけお金がかかってもかまわないと。ちなみにジャベリン。ミサイル、だいたい1000万。
中島:
一発ですか。
青木:
撃つための筒、だいたい2000万と言われる。1セット3000万。
中島:
本当に今そんな状況が行われていて、報道の映像を皆さんご覧になっているかもしれませんけれども、たとえば今こうやって大人の世界チャンネルをYouTubeでやっていますけれども、YouTubeでウクライナと入れて検索をかけたら、やっぱりキーウだとか、東部2つの州の悲惨な状況というのが毎日のように新しい動画がアップされていたりとか、インスタグラムでもそういう映像がアップされてるので、やっぱりこれを遠いヨーロッパのことって思うことが一番危険なんですよね。
青木:
それはダメです。世界はひとつですよ、良い意味でも悪い意味でもね。
ということでこのあと、ウクライナ情勢に触れながら、どういうふうに変化があるのか、あるいはまわりの国々がどういうふうに振る舞ってきたのか、あるいはどういうふうに振る舞うべきなのかみたいなことをちょっとお話しようかなと、2人でですね。というふうに思います。
中島:
歴史を絡めながらいきますのでどうぞご覧ください。
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