世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんの「青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版です(許可を得ています)。
(前回の記事「ウクライナ情勢⑩ プーチンを動かすモノ」はこちら)
動画版:「ウクライナ情勢⑩ プーチンを動かすモノ」
中島:
歴史を紐解けば未来が見える。大人の世界史チャンネル中島浩二です。そして河合塾のカリスマ講師、世界史の青木先生です。よろしくお願いします。
青木:
お願いします。
中島:
ロシアがウクライナに軍事侵攻してということで、今それぞれの国がどういうふうな状況なのかという、どうしても日本に入ってくる情報というのは西側諸国経由の情報というところだし、離れているというところで、なんというか少しお花畑的なところはないことはないかなと思うんですよね。
青木:
おっしゃったように基本アメリカ経由で入ってくる情報が多いわけですよね。そういう中でアメリカの提案で国際連合の場で、ロシアに対する侵攻非難決議というのが出されましたよね。
今世界に200弱の国があって、ほとんど国際連合に入っているんですが、賛成151、反対が5。その5か国は、北朝鮮、ベラルーシ、あのルカシェンコ大統領がいるね。それからエリトリア、ロシア、そしてロシアから多大な軍事援助を受けているシリアのアサド政権。この5つが反対。棄権、これは35か国あって、中国、インド、それからアフリカの14か国。南アフリカ共和国も棄権しましたね。あとキューバ。キューバはロシアとの関係がいろいろ深いので。あと、かつてソ連領の中にあったカザフスタン、タジキスタン。それからイラン、イラク。こういったところが棄権。反対じゃないけども棄権した。それから意思表示をしなかった国が12か国あって、アゼルバイジャン、ウズベキスタン、トルクメニスタン。これはいずれも旧ソ連の中だったということですね。そういったところを含めて12か国。
だから一応の世界の国々の4分の3近くは、やっぱりこれは侵略だと、とんでもないことだと言ったんだけども、50か国前後が必ずしもそうじゃないよという立場を取ったと。特に中国とインドですね。ロシアと関係の深かった中国、それからインドも実は隣国のパキスタンとずっと仲が悪くて、パキスタンがアメリカ、イギリスと仲が良いもんだから、それに対抗するために、あるいはインドは国境線をめぐって中国とよく対立していたので、中国に対抗するためにも、60年代に中国と関係が悪かった当時のソ連との関係ができて、いまだにそれがちょっと引きずられていると。
中島:
それからロシアがいろんな資源を、どこの国も買わないというときに、インドに「安く買わないか?」といって、インドが買いそうになってるという、そこのところもあるんですけど、でも実はそうなると、今度は日本とかオーストラリアとかアメリカとかインドでQUADといって、4か国でなにかあったらお互い協力しましょうねという中にインドがあるという、こういう難しさって出てくるんですよね。
青木:
インドはインドでこれから経済発展していきたいと。中国と一緒ですよ。そのためにはエネルギーが必要なんですね。エネルギーって石油も天然ガスも偏在しているので、ロシアから買わないとかなり厳しい状況にはあるというのはわからないではないんですね。
中島:
これはどこの国も実はそうなんですよね、ヨーロッパなんてパイプラインで送られてるから、そこのところで、原油は買わないよといっても、ガスを全部買わないよってことが、果たしてヨーロッパが可能な、経済制裁というのも、経済って貿易だから、向こうに旨味があるということはこっちにも旨味があるから成立しているわけで、向こうの旨味を切るということはこっちの旨味もある程度我慢しなきゃいけないという、この難しさですよね。
青木:
特にNATOの中心国のひとつであるドイツですね。ドイツとロシアのエネルギーに関する結びつきって非常に強いので、ずっとドイツがフラフラしてたんですよね、はっきり言って。
中島:
最後の最後までフラフラしてました。支援するといってヘルメットを送るって。おいおい、ヘルメット?って。でもドイツも本気で支援に入りましたね。
青木:
そして今の政権党は社会民主党なんですね。中道左派かな。どちらかというと軍備拡張みたいな問題についてはそんなに積極的では、シュミットさんはそうでもなかったか。とにかくどちらかというと軍備拡張にはわりと及び腰だった時代が長いんですけども、そのショルツさんが対GDP比2%に防衛費を上げると。
中島:
僕ちょっと思うんですけど、スウェーデンとかフィンランドとか、NATOに入りたいというふうなことを、入るのを目指すみたいなことも言い出したし、スイスもずっと永世中立国だったのに経済制裁に加わって、銀行をという。それが、やっぱりこれは、じゃあ日本どうなの?今までずっと集団的自衛権とかいう話になったときに、どうしてもやっぱりアメリカの戦争に巻き込まれるんじゃないかという、ずっとその議論があったんですけど、今この状況を見て、どういうふうに皆さん感じてるのかなということがひとつと、それからよく言う人は、「そんな過激なことを言い出したら、まだ北朝鮮とか中国の脅威は今のところはそこまで差し迫ったものじゃないんだよ」ってよく言うんですけど、差し迫ってからそんな議論なんてできますか?政治なんて詰将棋だから、こうやったらこうとか、ああなったらああというのを前もっていろいろ準備したりとか、議論しておかないと、差し迫ったときになにも決めていませんでしたという、特に民主主義なんて決めるのに時間がかかるわけですから。
青木:
そうです。おっしゃったようにシミュレーションというのはいろんなことを考えてやらなくちゃダメなんですよね。特に僕、今回のウクライナ侵攻を通じて思ったのは、とんでもないことをする国の指導者が必ずしもいつも正常な判断力を持っているとは限らないと、冷戦時代にアメリカがソ連と対立していたじゃないですか。お互いに核ミサイルをたくさん持って。ただ、核戦争はキューバ一危機で起きそうになったことはあったけど結局起きなかった。なんで起きなかったかというと、相互確証破壊という考え方があって、ミサイルを撃たれる、すると必ず反撃されて、双方にものすごいダメージが出るということをお互いわかっていますよねと。だから撃たないようにしましょうねという歩み寄りが成立をすると。これを相互確証破壊というらしいんです。ただこれは前提があって、自分は冷静、正常な判断がなされるから。相手の国のリーダーもそうだというのが前提なんです。
中島:
これ本当に危険な上で成り立ってるんですよね。
青木:
そうです。今問題になっているのはもちろんロシアなんですけども、プーチンさんの頭の中に本当に歪んだ歴史観、歪んだ正義感、まったく合理性を欠く使命感みたいなものがあった場合にはもうコントロールできなくなるわけですよね。
中島:
今そんな状況にあるんじゃないかという話をまことしやかに専門家のかたが言ってるでしょ。
青木:
ウクライナの人たちだって2か月前までこんなことが起きるとはほとんどの人たちは実感がなかったんですよ。国境線にロシアの軍隊が配置されているといっても、それが怒涛のように攻めてくるなんて僕も思ってなかったし、ウクライナの国民の皆さんもそうだったらしいんです。
ただ、さっきの話に戻るけど、どんなことも起こるかもしれないというのを考えたうえでのシミュレーションというのはやらないかん。
中島:
そうですよね。なにが起こりうるということをいろいろシミュレーションしていて、ある程度対策をとっておかないと、そういうことにたぶん、日本というのはずっと議論すらしてこなかったところかなという。
青木:
そこは僕も非常にやばいなと思うんですよね。
中島:
良いとか悪いとかではなくて、じゃあどういう意見があるということで、みんなが判断して決めていく。それに従うという、多数の意見に従うということでしょうね。
青木:
そうなんですよ。具体的に議論を詰めていかなくちゃダメなんですよね。どういうふうにミサイルが飛んでくる。じゃあそれをこちらから全部撃ち落とすことができるのか。できないとすればどうすべきというかね。そしたら先制攻撃だという議論もあるし、戦争が起きないような関係性を作ることによって撃たせないようにするという方法もあるわけですよ。そういうことはきちんと議論しないとダメなんです。
中島:
そうなんですよね。議論すらタブー視してしまう。
青木:
ただこの頃の新聞の世論調査なんかを見てみると、たとえば核共有という問題について、賛成か反対かは別にして、議論をすべきだという意見はだんだん増えていってるので、これは健全かなと僕は思ってるんですけどね。
中島:
それに先生がこの前、収録のあとにおっしゃっていた、やっぱり同じポジションにずっと就き続けると間違ってしまうという話。今までプーチン大統領がずっと、憲法を2回も変えてまでやり続ける。しかももう今年齢いくつですか?って。それを考えたら、ちょっとやっぱり、本当に健康な正常な判断力を下してるのかなって、そこに疑問符を持つというのはおかしいことじゃないですよね。
青木:
20年間も権力のトップの座にいて、まわりはイエスマンばっかりで、ということは当然入ってくる情報って限られるわけです。その中にメディンスキーなんていう歪んだ歴史観を持った自称歴史学者がいて、どんどん一方的に歪んだ歴史観を注入していくと、それに凝り固まってしまうともうコントロールできないですよね。しかも核を持っているので。
中島:
これは本当に恐怖ですよね。とにかく今日は3回目でした。
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