top of page

ウクライナ情勢⑩ プーチンを動かすモノ【青木裕司と中島浩二の世界史ch:0151】

更新日:2024年1月18日



世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんの青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版です(許可を得ています)。


 中島:

歴史を紐解けば未来が見える。大人の世界史チャンネル中島浩二です。そして河合塾のカリスマ講師、世界史の青木先生です。よろしくお願いします。

 

青木:

お願いします。

 

中島:

ロシアがウクライナに軍事侵攻し、良い意味でも、そして悪い意味でも実は地球はひとつだと。そこのところを考えていかなきゃいけない。

 

青木:

今回のロシアによるウクライナ侵攻と無関係な国は存在しないんですよね。なんらかの関係は必ずある。

 

中島:

今、まわりの国がどういうふうな動きをしているのかというあたりの解説。

 

青木:

そうですね。それとウクライナに対する侵攻自身がどんな展開をしているかと。まず侵攻が始まったのは2月の下旬なんですが、3月1日に最初の停戦会談が始まったんですね。これはベラルーシで行われたんですけども、その第1回の停戦会談で気になることがいくつかあって。まず1つは双方の代表。まずウクライナ側の代表は国防大臣のレズニコフさんという人が、当然ですよね、出ていくわけ、停戦会談だから。

ところが、ロシア側の代表がメディンスキーという大統領補佐官だったんですね。軍事の専門家でもなんでもなくて、もともと文化担当の大臣、閣僚だったと。歳も若いんです、40後半かな、50前後か。「誰これ?」とみんな言ってたんです。専門家の皆さんも「ロシアはこういう人を出すぐらいだからこの停戦会談を真面目にやる気はないんじゃないか」と言われていたんですが、一部の専門家、本当の専門家の皆さんが「いやいやいや、メディンスキーというのは決定的な人間なんだ。どういうふうに決定的かというと、プーチンのいうなれば歴史観、頭の中を支配している」と。


中島:

大統領補佐官って、日本には大統領がいなくて補佐官という人たちがいないからわからない人、結構いるかもしれませんけど、補佐官とか報道官みたいな人って、実は大統領と一緒にいろいろ政策をああだこうだやっている人なんですよね。

 

青木:

一番近くて、なおかつ一番トップの人間が信用している人間なんです。

 

中島:

だから常に横にいるみたいな人なんですよ。通常は国防大臣といったら、国防大臣と同格の人、閣僚が話をするべきだというふうに思う人もいるんですけど、もっと腹心みたいな、懐刀みたいなのが出てきたという。

 

青木:

写真はこれなんですけどね。もともと歴史が専門なんですよね。よく言われるけど、プーチンの歪んだ歴史観、「ロシアとウクライナは一体なんだ。だから分裂することは許されない」みたいなものをどうも吹き込んだ人だと、そういう人が派遣されていったんですね。

さらに実際に停戦会談でいくつかの議題が出てきたわけです。ロシア側が要求したのはウクライナの中立化。ここでいう中立化というのは「NATOという西側の軍事同盟には入るなよ、そのことを約束しろ」と。ハッと思ったのは、ゼレンスキー大統領自身がそれについては話し合う余地があると最初から言ったんですよね。その段階で僕、かなりこれは急速に話し合いが進んでいくんじゃないかなというふうに思ったんですね。

2つ目にロシアの要求したのはウクライナの非軍事化。これは要するに武器を全部捨てろと。これは無理なんですよ。強盗に上がったロシアが、しかも殺人を犯したロシアが武器を持つなと、素っ裸になれ、無理に決まってるんですよね。これは無理だろうなと。

3番目に僕が一番気になったことがあって、プーチンがウクライナの非ナチ化を要求した。ヨーロッパであの第二次世界大戦、特にナチスの侵略を受けた国々、ほとんどですよね、ヨーロッパの。ヨーロッパの人たちとってナチスという名前というのはそうそう簡単に出せる名前じゃないんですよね。それ相当の覚悟がないとこの言葉は口に出せない言葉なんですよ。プーチンがウクライナに対して非ナチ化を要求したと。よく言われますけども、「ウクライナはナチスによって、ナチス的な連中によって支配されている。ゼレンスキーもその仲間である。よって我々ロシアはやっつけなくちゃならない。それによってロシア系住民、ひいてはウクライナの人たちも開放しなければならない」という、そういう論理なんですよね。

当時の日本の報道機関も含めて、あんまりその問題について触れることがなかったんですよ。武隈さんというテレビ朝日のモスクワ総局長だった人がおられるんです。それが僕の出ているラジオに電話したりしてくれたんです。

「すいません、僕、プーチンの、ロシア側の言う非ナチ化の要求というのがものすごく気になってるんです。実際にウクライナにナチス的な連中っているんですか?」と。「いる」とおっしゃったんです。

大きな力を持っているかどうかについてはいろいろ議論はあるんだけども、いるかいないかと言われればいるし、2014年のいわゆるマイダン革命のときにはネオナチ的な連中がかなり大きな仕事をしたと。その中心勢力のひとつが、今マリウポリで激戦を展開しているアゾフ大隊なんです。

8年前はアゾフ大隊と言っていて、そのあとに規模が拡大していったので、大隊よりもひとつ上の連隊、アゾフ連隊と呼ばれるようになったんですね。その彼らがマイダン革命のときにも、具体的な実力行使も含めて頑張ったと。

そして2014年から始まった東部2州の事実上の内戦ですね。そこでも親ロシア派の軍事勢力との間に激戦を展開していると。その彼らのことを、アゾフ連隊とかアゾフ大隊と言われた連中のことをプーチンは「ネオナチだ。ナチスだ」と言ってるわけですね。

実際にこの組織ができたときのリーダーというのはかなりその傾向があったということなんですね。ちなみに言うと彼らのエンブレム。


中島:

ちょっと鉤十字っぽく見えるなとも思うんですが、そういうものなんですかね。

 

青木:

あとウクライナの侵略者、ナチスドイツの親衛隊。その親衛隊の部隊の旗にもよく似てるらしいんですよね。実際に初期のリーダーというのがかなりネオナチ的な、たとえばLGBTの人たちに対する暴力とかをよくやっていたということらしいんです。それがずっと僕、気になっていたんだけども、ついこの頃だったですかね、日本にいる数少ないウクライナの専門家の岡部芳彦という神戸学院の先生がおられるんですが、このかたは違うと。

それからこのチャンネルでもご紹介しましたが、以前のウクライナの元大使、角茂樹さん。このかたも「アゾフ大隊はナチスではありませんよ。ネオナチ的な連中ではありませんよ」と。いろいろ調べてみると、できた当初は結構その傾向が強かったけども、今はかなりそれは薄まっていると。ただ、完全になくなっているとは誰も言っていないんです。

 

中島:

そういう団体が急にまた出てきたりとかするんですね。

 

青木:

ですね。実際に第二次世界大戦のときにも、侵略してきたナチスの連中と手を結んだウクライナ人って結構いるわけですよね。一緒にユダヤ人を虐殺したりして。さらには歴史的にもウクライナって反ユダヤ主義、特にウクライナの西部のほうですね、反ユダヤ主義の歴史がなかったわけじゃないので。そういったことでプーチンにある意味つけ込まれるようなポイントは。

 

中島:

それを目的に使われるというところは。

 

青木:

ないわけではないですね。専門家のお2人がないとおっしゃってるので、そうなのかなと思うんだけど、なんか僕は気になってしょうがないんですよ。

他人を差別するというのがナチスの連中の得意技なんだけども、そういったものってそんなに簡単になくなるものだろうかというのはいつも僕はあるんですよ。

 

中島:

今までの人間の歴史というか、ずっと差別の歴史ではありますからね。

 

青木:

それがちょっと気になっているということですね。ひょっとするとこのあたりがウクライナとロシアの停戦会談なんかで大きなネックになっていくのかなというふうに僕は当時は思っていたんです。今も少し思っていますけどね。

そんなことで停戦会談もなかなかうまく進んでいかないという状況なんですよね。ただその中でロシアが言ったのはなにかというと、「ウクライナよ、将来的にはスウェーデンやオーストリアみたいな国になってくれ」というようなことを会談の中でちょっと言ったことがあるんですね。スウェーデンという国はスイスと一緒で、第一次世界大戦も第二次世界大戦もずっと中立だったんですよね。オーストリアはというと、かつてのナチスドイツの一部を構成していて、ヒトラー自身もオーストリア出身なんですよ。戦後、ソ連とかアメリカなんかによって分割占領されて、ドイツみたいに分断されたくなかったので、オーストリアの人たちが国民も政治家も含めて、アメリカ、イギリス、フランスそしてソ連に向かって「分断しないでくれ」と、国を。そのために特にソ連に向かって「絶対NATOには入らないから」と。軍隊は最低限持つけども、そして経済的な結びつきは西ヨーロッパと深めるけども、絶対にNATOには入らない。さらに言えば核武装も絶対にしないと。このことを約束してソ連を納得させるんですね。そのことをプーチンは思い出して、「ウクライナよ、オーストリアみたいな国になってくれ」みたいなことを言ってたんですね。

これはウクライナ側も絶対ダメだというふうなことは言えないと思ったので、このあたりがとっかかりになって停戦会談がうまくいくのかなと、かなり僕は期待してたんですよね。

 

A

そういうふうに思った人も多かったですよね。

 

青木:

ところがそれをぶち壊す事態が起こったわけですね。それがキーウの北方のブチャという街で行われたロシア軍のいわゆる残虐行為。

 

中島:

この虐殺という行為ですよね。

 

青木:

これを目の当たりにしたゼレンスキー大統領も、そういうことをやった連中とテーブルを挟んで、間接的であるにせよ話し合うと、感情的にももうかなり厳しくなってきたと思うんですよね。

 

中島:

なると思います。だってああいうポジションの人って国民が家族と同じじゃないですか。

 

青木:

そうそうそう。

 

中島:

その家族が虐殺されて、街にその遺体が転がってるって。今は衛星写真とか、ずっと常に撮れるような状態なので、隠しきれないんですよね。

 

青木:

隠しきれないです。いろんな状況証拠を合わせてみると、あるいは生き残った住民たちの、ブチャの街の住民たちの証言なんかも合わせてみると、ロシア軍がやったことにまず間違いないと。ちなみに言うと僕は実際に映像に出てきたご遺体を見て、そのうちの半数ぐらいだったかな、うしろ手に手を縛られて、首筋を撃たれて銃殺されてるんですよ。それを見たときに思い出した風景があって、なにかというと、かつてのソ連時代の秘密警察がやった処刑なんです。

しかもブチャの住民によると、最初に年若いロシア兵がやってきたと。装備も大したものじゃなかったけども、占領が始まってしばらくすると、ちょっと40代ぐらいの、装備も格段に近代化された連中がやってきて、この連中が虐殺の張本人だったと。これも一部専門家の説によると、たぶん連邦保安部、FSBと言いますけども、ロシアのFSB、連邦保安部の職員。ぶっちゃけて言うと秘密警察ですよね。こういう連中の要員がやってきて、ブチャの市民たちがロシア軍の動向をスマホで動画に撮るじゃないですか。たぶんそれを見て「お前はスパイだ。我が軍の軍事行動を邪魔したスパイだ」というので銃殺したんじゃないかなと、そういう推測が成立するんですよね。

 

中島:

その状況になったら本当に命令とかじゃなくて恐怖になっていくんでしょうね。

 

青木:

ですね。ただ、FSBの連中というのはわりと戦略として、嫌な言葉だけど、戦略としてそういった恐怖を与えるみたいなことは。

 

中島:

そういうの、記事では載ってますね。

 

青木:

だと思うんですよね。わけがわからなくなって無差別にやってしまったというよりは、意識的に恐怖を与える。

 

中島:

恐怖を与えて反抗する気持ちをくじくということですね。

 

青木:

そうですね。かつてナチスドイツがやったり、ソ連の秘密警察がやったのとまったく一緒なんですよね。嫌な意味で歴史は繰り返すというのを僕、ブチャの虐殺のご遺体の映像を見て思ってしまいました。

とにかくこれでもう停戦会談が進むこの期待というのは、かなり失せたという感じだったんです。

 

中島:

3回目に続きます。









Comments


bottom of page