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ウクライナ④-ソ連時代の大飢饉【青木裕司と中島浩二の世界史ch:0145】



世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんの青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版です(許可を得ています)。


中島:

歴史を紐解けば未来が見える。大人の世界史チャンネル中島浩二です。そして河合塾のカリスマ講師、世界史の青木先生です。よろしくお願いします。


青木:

お願いします。


中島:

ロシアがウクライナを侵攻してというところからウクライナをずっと見ていっておりますけれども、20世紀に入ってのウクライナということですね。


青木:

まず第一次世界大戦、そしてそれと連動して起こったロシア革命ですね。これまで300年間ロシアに君臨してきた皇帝が打倒されて、ロマノフ家という王朝が打倒されて新しい国ができると。従来のロシア帝国の枠組みが崩れていくので、それに乗じてウクライナで、じゃあ自分たちの国を作ろうと、そういう動きが出てくるわけです。しかしこれを、権力を握った共産党政権が許すはずはないですね。それは豊かですもん。

中島:

ウクライナを好き勝手にさせてしまうと自分たちには不利益だということですよね。


青木:

ちなみに第一次世界大戦のときもイギリスやフランスの側にロシアはつくわけです。ドイツ、オーストリアと戦うわけだけども、ドイツ、オーストリアはウクライナが欲しくて進撃するわけ。ドイツ、オーストリアはイギリス、フランスに比べれば弱いけども、軍事的にはロシアに対しては強かったので、第一次世界大戦の東部戦線、結構ロシアはやられているんです。ウクライナ、2、3年の短い期間ではあるけども大戦中にドイツ、オーストリアに支配されてるんです。

中島:

ということは本当に豊かなところでみんな欲しいと。


青木:

もうちょっと気温が高ければね。もうちょっと気温が高ければというのはあるけども、本当に豊かで、みんなそれを知ってるので、あとでしゃべるけどヒトラーもそうですよ。彼は言う、ロシア、実際にはウクライナです。あそこを押さえればドイツ人は1000年間遊んで暮らせると。


中島:

そんなに豊かなところなのに、ソ連が崩壊して全然経済的に豊かになってないですよね。


青木:

そうですよね。そこは農業中心なので、農産物って国際価格に左右されるし、工業生産物に比べると付加価値が少ないので、値段がなかなか上がらないんですよね。そんなこともあってね。


中島:

豊かな土地は豊かな土地でみんなが欲しがる土地だということですね。


青木:

そう。第一次世界大戦中はドイツ、オーストリアも欲しがったし、ロシア革命後、ウクライナの独立をモスクワの共産党政権は認めることは絶対にしなかった。

ロシア革命後のいわゆるソビエトですね、外国が干渉してきたり、あるいは内戦が起こったりして大変な状況なんですよ。その大変な状況はウクライナにも及んでいって、ウクライナでは飢饉が起きると。この飢饉はウクライナだけじゃなくてロシア全体で起きるんですけどね。これでたぶん100万人以上の人たちが餓死をし、内戦で亡くなっていったんじゃないかと。

しかも共産党政権も内戦に勝ち、外国の干渉戦争に勝つためには兵士に頑張ってもらわにゃいかんじゃないですか。兵士に頑張ってもらうためには兵士たちに食べさせないといかんじゃないですか。じゃあ穀物をどこから持ってくるかと、みんなパッと浮かぶのはウクライナなんです。だから豊かなウクライナが収奪の対象になって、たくさんの穀物を奪い取られる。

これに対する反乱なんかも実は起きるんです。1921年だったかな、マフノの反乱。マフノというのは指導者ですけども、この人をリーダーとしてウクライナで反乱が起きたりするんです。1921年に内乱もほぼ終わり、内戦もほぼ終わって、干渉戦争も、日本を除いてだいたいみんな出ていく、帰っていっちゃう。

ホッとしたのも束の間、ここにスターリンという独裁者が登場するわけです。スターリンという男は外国に対抗するためにこのソビエト連邦という国を維持していかないといかんと。ちなみにソビエト連邦はこんなに本当に広い領域ですよね。2200万円平方キロメートル。かつて地球上に登場した2番目に広い国家、モンゴル帝国に次いで。そのソビエト連邦に属する15の共和国のひとつかウクライナだったんです。



中島:

ここのところがどうしても我々、僕の世代は特にソ連という言い方で、ソ連というひとつの国というふうに思いますけど、連合体ということですよね。


青木:

そうですね。建前上は連合体なんだけども、国家の中枢は誰が占めているかというと、モスクワからやってきた共産党の連中なんですよ。


中島:

ということはやっぱり連合体だけれどもひとつの国というふうな。


青木:

そう。中央集権体制です。


中島:

ということで、ウクライナという当時は地域という言い方。


青木:

実際にはそうですね。


中島:

共和国ではあるけれどもそういうことですよね、ベラルーシとかも。


青木:

ざっくりしたたとえで恐縮だけど、日本の県に当たるぐらいかな。


中島:

ウクライナ県になっちゃうということですか。


青木:

ただ、ウクライナのリーダーが日本の福岡県の県知事さんみたいに権限があるかというとないですね。


中島:

もっとないということですね。


青木:

もっとない。そのソビエト連邦で独裁者の地位についたスターリンが、やっぱりこの国を守らないといかんと、それは思ったと思うんです。守るためには軍事力を発展させにゃいかん。そのためには工業を発展させにゃいかんと。それまでのソビエト連邦、中心はロシアだけど、農業国なんです。農業人口が圧倒的に多くて、工業はそれほど発展していない。じゃあソ連を狙う国々に対抗できないよねと。アメリカ、イギリス、フランスなんかに対応できないよねと。1928年から第一次5か年計画というのを始めて重化学工業を発展させようとするわけです。とにかく工業を発展させにゃいかん。そのためにはたくさん労働者がいる、労働者に食わせる穀物はどこから持ってくるかと。


中島:

ウクライナですか。


青木:

ウクライナ。


中島:

また大変な。


青木:

豊かなウクライナというのが一番重要な穀物供給地域としてスターリンから狙われるわけです。どれぐらいの穀物をウクライナから持ってこれるかと。第一次5か年計画自身は1928年から始まるんだけど、1930年に大豊作なんですよ、ロシア。ウクライナを中心にものすごく穀物が採れるわけ。そのときの生産量が基準になるわけ。


中島:

うわー、それは大変だ。


青木:

そのときの数値を基準にして、なおかつそれをもうちょっと盛ったやつを基準にしちゃうわけですよ。


中島:

目標にしちゃうんですね。


青木:

1931年から32年、不作だったんです。にもかかわらずスターリンは掲げた目標は降ろさんということで、予定通りの穀物を奪っていく。なにが起きるかというと、当然ながら飢饉が起きるわけですね。

しかも今回の飢饉はスターリンという独裁者が引き起こした人為的な飢饉。実際にウクライナの人たちは食べるものがないと。にもかかわらず、共産党から派遣された軍隊や秘密警察、特に秘密警察、NKVDというんですけど、内務人民委員部と言いまして、よくいうKGBという組織が昔ありましたけど、あれの前身。こんな連中ですよね。

中島:

これは嫌ですよね。


青木:

ときどき生徒に聞かれるんですよ、「先生、秘密警察ってなに?」普通の警察となにが違うんですか?って。普通の警察は一般の我々市民社会の治安を守ると。じゃあ秘密警察はなにを守るかというと、今の体制を守ると。今の体制の敵を殲滅する。そのためには人権なんか構っちゃいないよと。

これ実はラップのグループのレコードのジャケットなんですけど、1917というグループがいて、そいつらの、どういうつもりで作ったかわからんけども、NKVDという。

中島:

大変な飢饉になって、確かそのときにここが大変なことになっているということで、アメリカとかでも映画になって、相当な物資が送られるんですよね。


青木:

送られた事例もあるんだけども、ソ連はこの事実をなんとかひた隠しにしていくと。ある程度それが成功するんです。実際にロシアの状況を見てくれというのでいろんな有名人が行くんです。ソ連にやってきた有名人にはもちろん豊かなところしか見せないんです。でも実際にはさっきも言ったように無理やり収奪していって。

結局どうなるかというと、落ちていた小麦の穂を拾っただけで処刑されたりとか。要するに「お前は人民の財産を横領した」というので、落ちていた小麦の穂をポケットに入れているだけで処刑されたりとか。このへんにパンを食べた跡がある、「お前1人でたくさん食べただろ」といって処刑されるとかね。そういう粛清みたいなことも行われると。

一方で大飢饉によって、少なく見積もって300万人、多く見積もると600万人のウクライナの人たちが亡くなっていったんじゃないかと言われるんですね。


中島:

たかだか100年前ですね。


青木:

100年弱ですね。


中島:

100年弱ぐらいのときにそんなことが起こってるんですよね。


青木:

これはホロドモール(ウクライナ大飢饉)と言いまして、1932年から33年の大飢饉。さっき言ったようにロシア革命後の20年から21年にもウクライナは飢饉に見舞われるけども、このときは内戦とか戦争による飢饉だったんです。ロシア全体だった。今回は何度も言いますが、スターリンという独裁者が人為的に起こした飢饉です


中島:

これはかなり罪が深いですね。


青木:

これについて2000年代に入ってウクライナでは、これはウクライナ民族に対するジェノサイド、民族虐殺であると、そういった主張をするようになっていったんです。


中島:

でもそう考えたら豊かな土地であるがためにどんどん悲劇が襲ってくるという。


青木:

そうですね。1回目も申し上げたけども、地理的に平坦でしょ。日本みたいな島国だからまだそこに強力な権力が登場して外敵の侵入を許さないとかあったかもしれんけど、いろんなところにオープンな地域だったので。


中島:

いわゆるどこからでも入ってこられるということなんですよね。


青木:

そうなんですよね。


中島:

次回に続きます。








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