世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんの「青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版です(許可を得ています)。
(前回の記事「ウクライナ情勢⑪ 諸国の反応は?」はこちら)
動画版:「ウクライナ情勢⑫ 中国、日本は」
中島:
歴史を紐解けば未来が見える。大人の世界史チャンネル中島浩二です。そして河合塾のカリスマ講師、世界史の青木先生です。よろしくお願いします。
青木:
お願いします。
中島:
ロシアのウクライナ軍事侵攻で周辺国というので、ここで中国の話をしましょうか。これが僕は本当に不思議だなと思うんですけど、中国はロシアがウクライナに軍事侵攻して、周辺諸国がどんなふうな反応をするかとかをずっと見ているわけですよね。
そんな中で、でもボロボロになりながらもロシアがプーチン大統領であってほしいみたいな。強いロシアも望まないし、弱いロシアでプーチンさんのままみたいなのが自分たちの国にとっては都合が良いなというところが怖いですね。
青木:
そうですね。以前もこのチャンネルで申し上げましたけども、プーチンが恐れているのはもちろんアメリカやNATOの軍事力。プラス、アメリカや西ヨーロッパやあるいは日本が持っているいわゆる民主主義の価値観ですね。そういったものが自分たちの国に押し寄せてくる、自分の持っている権力が揺らいでしまう、あるいは打倒されてしまう。これを非常に恐れているわけですよ。これは中国共産党の独裁体制が続く中華人民共和国も一緒なんです。
自分たちの中国という国のすぐ北側にアメリカ的価値観を持った国、独裁を認めないような価値観を持った国ができてしまうと、これは自分たちの中国の国民に、共産党から言わせれば悪い影響を与える恐れがあるということで、そういう意味ではプーチン頑張れなんですね。
ただ一方で悩ましいのは、ロシア以上に中国って世界と貿易をやっているじゃないですか。もちろん政治的には対立している日本ともアメリカでもやっているわけですよね、ヨーロッパともやっているわけですよ。だからロシアみたいにどうしようもなくなったら国を閉じても良いとは思ってないんですよね。そこでずっと様子を見ていると。
中島:
今回ロシアのすごいのは国を閉じてもある程度やっていけるという算段があるということ、こんなのが今の世の中であるというのは、それだけ資源大国なんですね。
青木:
おっしゃったようにエネルギーには事欠かないということと、もうひとつは歴史的にロシア国民って苦しい時期をいっぱい経験しているじゃないですか。
中島:
貧乏になってもそう反発しないという。
青木:
反発しないし、適応能力があるんです。たとえば野菜が高くなったね、じゃあ裏庭の畑で作ろうかと、それで自給するとかね。そういうことが歴史的に、ロシア民族の中に植え付けられてきていたんですよね。そういう意味では強い民族なんですよ。
中島:
すごいなーと思って。ただ中国は違うということですか?
青木:
違いますね。ロシアに比べてはるかに世界との結びつきが強くて、なおかつそれをやらないと中国国民が。
中島:
あの人口を食べさせていけないと。
青木:
特に共産党が怖がっているのは、中流から下の人たち、彼らが怖いんです。彼らが豊かになりたいという欲望を持っていて、それに応えられなければ我々の支配体制は終わりだというふうに思っているんですよ。これはこのチャンネルでも言ったけども、共産党がなにが一番怖いかって、自国民なんです。
中島:
そうですよね。どこの国も実際はそうですよね。
青木:
そうなんです。特に中国の場合は70年前に文字通り貧乏なお百姓さんたちの支持を得て権力を握っていたわけでしょ。だから彼らの支持で権力を握ったわけだから、彼らに歯向かわれたらどうなるかってよくわかってるです、そこはね。
中島:
この民主主義という価値観が怖いというふうに言いながらも、実は世界を見渡してみると、民主主義ってちょっと少ないんですよね。
青木:
はい。日本とか西ヨーロッパとかアメリカみたいに、とりあえずみんなで議会で話し合いましょうといって多数決をきっちり取って、多数派の意見にみんな合わせましょうと。もちろん少数派の意見も無視はしませんよと。時間はかかるけど議会制民主主義って大失敗しない、特定の権力者の暴走を許さない政治システムとして歴史的に価値があったわけですよ。
じゃあ中国はというと、今のロシアのプーチン独裁と違って、習近平さんは大きな力を持っているけども、個人独裁じゃないんですね。かつての中国は個人独裁だった、毛沢東の。ただ毛沢東の個人独裁の時代に文化大革命やら
中島:
本当に大変なことになりましたね。
青木:
その前の大躍進運動の大失敗やらで、何千万何百万という人たちが動乱の中で命を失ってきた。この点は中国共産党は反省したんですよ。個人独裁者が登場しないようなシステムを作ってきて、一応国家主席とか共産党の首席というのは大きな権限を持つけども、共産党の常務委員会というのがあって、よくはビッグ7、七つ星とか言いますけども、あくまでもそのトップの数人の合議制でやっていくと。
ところが習近平さんが今年の10月の共産党大会で党主席(※訂正:「党主席」のポジションは1982年に廃止されていました)3選目を目指すと。だからプーチンと一緒じゃんと。
どんな優秀な人間も、どんな良い人も、長期間独裁的な立場にいると必ずダメになると。我々中国人は毛沢東でそれを経験したじゃないかと言うので、今おもしろいのは、習近平の力で盤石に見えるけども批判は出てきているんです。
しかもそれが、かつて総理大臣を、首相を務めた朱鎔基さん。この人が1か月くらい前だったかな、「習近平さんは3選すると言ってるけど、それはいかがなものですか?」と。これが報道されたんです。
プーチンのあの惨憺たる状況、ロシアの惨憺たる状況を見て、中国国内にも「ちょっとまずいんじゃないか」という議論が出てきたのはちょっとですけどホッとしているんですよね。
中島:
ロシアが今後どうなっていくかによって、中国も自国民を納得させるためにいろんなところに打って出るみたいなことって考えているでしょうからね。
青木:
当然ですね。目的は自国民を豊かにする。
中島:
そうですよね。それを考えたら日本なんてものすごく近いところだし、じゃあ中国と台湾ってどうなるの?って。ここのところなんてものすごく関わってきますよね。
青木:
もちろん近隣の国々を、特に政治的にあんまり良い関係じゃない国々をことさら刺激することは避けつつ、冷静な議論はやるべきなんですよ。もちろん軍事に関する話になってくるので、全部が全部オープンにできるかといったらなかなかそれはできない。だから政府内部でそういう議論をするし、国民的にはまた国民的な議論もやっていくべきだと思うので。
中島:
それはそうでしょうね。本当にそんなことがないとは言い切れないし、それは差し迫った脅威じゃないですよって、いやいや、差し迫ってからはもう話し合いができんだろうと。
青木:
それについては思うけど、戦争って突然起こるんですよ。今回のウクライナ侵攻でわかったじゃないですか。
中島:
今回のことでわかったので、僕はこういうことについてもっともっとみんなで話をする、良いとか悪いとかじゃなくて、良いと思う人とか悪いと思う人とか、いろんな人の意見が出てきて話が活発になるような世の中じゃないと、「その話はなんだ」とか言ってしまって、いざどうにかなったときに誰も責任を取りませんってどういうこと?って。
青木:
今更ながらになるけど20年ぐらい前から石破茂さんが言っていることなんですよね。国民の安全に関する問題は今も大事だし将来も大事だと。それについての議論をタブー視すべきではないとずっと言われてきて。
中島:
おっしゃっていましたね。
青木:
今更ながらそうだよねと。
中島:
本当にそう思います。
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