世界史参考書の超ロングセラー『青木裕司 世界史B講義の実況中継』シリーズの青木裕司先生と、福岡を中心に活動する人気タレント中島浩二さんの「青木裕司と中島浩二の世界史ch」の文章版です(許可を得ています)。
(前回の記事「2024年は選挙の年(1)台湾総統選挙の結果は?」はこちら)
動画版:「2024年は選挙の年(2)ロシア大統領選挙」
中島:
歴史を紐解けば未来が見える。大人の世界史チャンネル中島浩二です。そして河合塾のカリスマ講師、青木先生です。よろしくお願いします。
青木:
お願いします。
中島:
2024年ということで大きな選挙が、台湾の選挙は終わりましたけれども、次はロシアですか。
青木:
そうですね、3月にロシアの総選挙ですね。大統領選挙。誰が勝つかは明らかなんですよ。
中島:
プーチンさんですね。
青木:
はい。一応プーチン政権、与党、統一ロシアというんですけども、統一ロシアという与党から彼はあえて出ていって無所属で出るらしいんですよ。なぜかというと戦争をやってるじゃないですか。特定の政党の代表じゃなくて国民みんなから自分は支持されているという、そういうお膳立てをしたいんですね。
中島:
見え方ということですか。
青木:
そうそう。これは日本だって都道府県の首長選挙のときに、あえてどこかの党員じゃなくて無所属で出られることが多いですよね。それと一緒にするとちょっと悪いですけども、プーチンの場合は国民の代表なんだという形をとりたいんです。
中島:
それこそ投票率とか支持率を見ていて、あんな数字が出るんだろうかっていつも思うんですよ。
青木:
一応今回の選挙でプーチンたちがどんなことを考えているかというと、まず一番の目標は投票率70%、これを目指しているらしいです。今の日本の衆議院選挙みたいに50%ギリギリだと戦争を続ける正当性というか、それがちょっと危うくなるというので70%、要するに3分の2以上です。この国民が投票所に行ったと。で、投票したと。なおかつその投票率70%で得票率80%。
中島:
そうなんですよ。得票率が今まで8割台って。
青木:
だいたいそうですね。投票率7割で、得票率8割で、掛けたら56%。一応半分以上の国民も支持はあると。その私が戦争を続けてるんですよと。でもその形をとるために大統領候補として立候補しますという人は次々と逮捕されるんですね。
中島:
これが去年の9月以降ですかね、どんどんそのニュースが、ニュースになっていないものも結構あるんじゃないかなというところと、ジャーナリストも次々消息を断ったみたいなこともあるじゃないですか。
青木:
実際に殺害されたと言われている人たちが100人以上いるんですよ、このプーチンの時代に。
中島:
しかもよくよく見てみたらいろんなところで、戦争といっても実はロシアって領土が広いですから、民族もいろんな民族の人たちとか言葉の人たちがいるわけでしょ、そのわりと少数民族の人たちはパーセンテージ的には結構戦地に送られていたりみたいなことで暴動が起こっていたりとか、そんなんでその投票率と得票率が取れるのかなと思って。
青木:
ただ一応、数字には疑問が一定程度あるけども、高い支持をプーチンが集めているのはこれは間違いない。なんでそうなるかというと、特にロシアの年配の人たち、そういった人たちというのはソビエト連邦が崩壊したあとの大混乱、あのときよりは今のほうがマシだという気持ちがあるんですよね。なおかつプーチンが政権を握ったのは2000年代ですけどね、この20年なんだけども、その2000年代の2010年を中心とした数年間って石油の値段が高かったので結構ロシア経済が潤ったんですね。そのときの良かった時代の記憶と、1990年代全般のとんでもなかった時代、その対比。とんでもなかった時代のイメージとしてはたとえばゴルバチョフ、あるいはエリツィン。
それを安定化させたプーチンという、すごくステレオタイプな、安定をもたらしてくれたプーチンというイメージがめちゃくちゃ強いんですね、強いみたいなんですよ。それはなかなか揺るがない。それが揺るがされるとすれば今回のウクライナとの戦争が激化して徴兵に打って出る。要するに兵員が足りなくて、今だいたい20万人ぐらいのロシア兵が戦死したかもしくは傷を負って戦闘不能の状態に陥っていると。ロシアの常備軍って110万人ぐらいなんですよね。そのうちの20万人が戦闘不能になったということは20%でしょ?だいたい軍隊って30%が戦闘不能になったら組織的抵抗ができなくなると言われてるんですよ。
これは僕の知り合いの自衛隊にいたやつがいて、それが言っていたんだけど歯と一緒で。
中島:
30%の歯がなくなったら咀嚼ができないということですね。
青木:
できない。僕が今そうなんですけどね。
中島:
ただそれ以上にウクライナが今厳しい状態。ロシアが侵攻して、ロシアはすぐにキーウは落ちるだろうというふうに思っていた、それはまったく違った。西側がかなり支援した。でも西側が思ったふうに今行っていないですよね。
青木:
行っていないですね。特に今年アメリカの大統領選挙がありますけども、もしもトランプが勝ったらもう支援しないと、これ以上の支援はできないというふうにたぶん言ってくると思うんですね。そうした場合にウクライナがどうなっていくのか。ウクライナが、言葉は悪いですけども、アメリカによって見殺しにされていくのかということですよね。
中島:
もともと国力の違いってこんなにも、しかも人数も全然違いますからね。
青木:
ウクライナの人口がだいたい4000万人。ただ、そのうちの1000万人近くは国内国外含めて避難をしてるんだよね。実際に戦える人たちじゃないんですよね。非常にウクライナが劣勢であるのは間違いないと。一方ロシアは順風満帆かというと全然そんなこともなくて、さっきおっしゃったように本当は1週間でキーウが陥落して戦争は終わると、ゼレンスキーさんが土下座をして戦争は終わるというのがプーチンのシナリオだったんです。ところがもう2年経とうとしているわけですよ。
中島:
今度の2月で丸2年ですよね。
青木:
ですよね。一方のプーチンも、始まったのが2022年の2月24日ですね、私の結婚記念日です。もう2年経とうとしていると。戦況はウクライナの反転攻勢が失敗に終わったという話があるので、ややロシア軍が攻勢みたいなんですが、ただいつ終わるとも知れないと。いつ終わるとも知れない中でプーチンはやめられないですよね。もしもここでスパッとやめるとしたら、必ずロシア国内から「これまで亡くなった人たちはどうなるんだ」と。これはいったん始めた戦争をやめられない一番大きな理由なんです、過去の歴史の中でも。さっき数字を出しましたけども、20万人のロシア兵が亡くなったり、戦闘不能に陥ったり、傷を負った、あるいは亡くなった兵士たちはどうなるんだと。犬死にじゃないかみたいな議論が必ず出てくるんですよ。だから国民の目に明らかにわかるような具体的な成果というか、それを示さない限りはプーチンも戦争をやめるにやめられないんです。
中島:
一方ゼレンスキーさんはもちろん取られたところは全部取るよと、戻してもらうよ、じゃないと交渉には応じられないと言っているんですね。
青木:
言ってるんですよね。2022年にウクライナ戦争が始まって以降、ロシア軍が占領している地域、これはゼレンスキーさんからすれば絶対にそこからロシアを追い出すと。ひとつ僕はヒントになると思うのは、去年の12月にキッシンジャーが亡くなりましたね、
100歳だったんですけども、あのキッシンジャーが亡くなる直前ぐらいかな、ウクライナ戦争をやめるシナリオというのを言ったんですよね。どういうふうに言ったかというと、基本は2014年のミンスク合意、すなわちウクライナ東部の親ロシア派の住民が多いと言われる地域については独立もしくは高度な自治を認めると。そこについてはゼレンスキーさんに諦めてもらう。あるいはウクライナ国民に諦めてもらう。ロシアの占領地域からロシアは撤退する。これが双方が一番納得できる落としどころではないかという、ほとんど彼の遺言だったんですけどね。
中島:
今までいろんなところでそういう交渉を渡り合ってきた男の経験値からして、もうそれしかないということですよね。
青木:
だいたい始まった戦争をやめるときというのは3つのパターンしかないんですよ。ひとつはさっき言ったように双方がそこそこ納得できるところで折り合う。パターン2はなにかというとどっちかが圧倒的に勝って、どっちかが圧倒的に負けると。これはそれこそ太平洋戦争のときの日本とアメリカですよね。もうひとつのパターンは双方ともヘロヘロになってしまうと。お互いにもうこれ以上戦争はやれないよ、その状況にウクライナもウクライナ戦争で近づいているんだけども、双方がヘロヘロになってもやめざるを得ないというのはたとえば1980年代に展開されたイランイラク戦争ですね。あれなんかは双方とも深い傷を負って、これ以上は無理だというのでやめていくんですけどね。どのパターンになるかということです。
中島:
そうですね。本当に今冬だからわりと戦況が膠着していますけれども、また春になって暖かいときになってというところで、また支援もどこまで続けられるのかという。アメリカ大統領選挙もひとつポイントになるんじゃないかということで、アメリカ大統領選挙の話を次回します。
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